2017年1月に発売された新型「スイフト」。写真は1.0Lターボエンジンを搭載した「RSt」
このところ、スズキが攻めている。このコラムでも第18回で新型「アルト」、第48回で「イグニス」、第72回で「ソリオハイブリッド」を取り上げたが、今回のテーマは、1月4日に発売された新型「スイフト」である。新型スイフトは3代目になるのだが、これが少々ややこしい。というのも、スイフト、という名前の付いたクルマは、日本では4代目になるからで、今回の新型スイフトを4代目スイフト、と紹介しているメディアも多い。ではなぜ3代目なのか。
「3代目」と呼ぶ理由
「スイフト」という車名は、古くは1980年代のコンパクトカー「カルタス」の初代・2代目モデルの海外仕様に使われていた。また、日本で最初にスイフトという名称が使われたのは、2000年に発売された「ワゴンR+」のプラットフォームを用い、一部の外板を軽自動車の「Kei」から流用したモデルで、このモデルは海外では「イグニス」という名称で販売されていた。
その後2004年に、プラットフォームから新設計された世界戦略車として発売された「スイフト」を、スズキは国内での初代スイフトと位置づけている。この初代から数えて、今回の新型スイフトは3代目に当たるというわけである。筆者もスズキの呼び方に従って、今回の新型スイフトを3代目と呼ぶことにする。
先代の2代目スイフトは2010年9月に発売されたのだが、このモデルは非常に気持ちのいいクルマだった。特に1.6Lエンジンを搭載したスポーツモデル「スイフトスポーツ」の6速手動変速機仕様は、手動変速機のクルマを運転する楽しさを再認識させてくれるモデルだった。なので、今回の新型スイフトの出来にはとても関心があった。
クラス随一の軽さ
新型アルト、イグニス、新型ソリオと同様に、新型スイフトもスズキの新世代軽量プラットフォームの「ハーテクト」を採用している。そのほか車体各部の軽量化を積み重ね、モデルにもよるが、最大で120kgもの軽量化を果たしているのが特徴だ。このコラムの第18回でも触れたのだが、スズキの新世代プラットフォームで面白いのは、その構造に、マツダの新世代プラットフォーム「SKYACTIV BODY」や富士重工業の新世代プラットフォーム「Subaru Global Platform」との共通性があることだ。
スズキの従来のプラットフォームでは、フロントの骨格からフロア下につながる骨格がフロアの途中で途切れていたのだが、新世代プラットフォームでは、フロア下につながる骨格が斜めに配置されて後輪の前で、フロアの両側を通る骨格(サイドシル)に結合されている。この考え方が、マツダや富士重工業の新世代プラットフォームと共通しているのだ。骨格同士を滑らかに結合することで、荷重が効率的に伝わるようになり、車体剛性を高めつつ、アンダーボディの重量を、従来の117kgから87kgに、30kgも軽量化できたという。
スズキの新世代プラットフォーム「ハーテクト」を裏からみたところ。写真は新型「アルト」のものだが基本構造はスイフトでも同じである。フロントからフロア下に続くフレームを斜めに配置したのが特徴
軽量化の手はすべての部品に及んでいる。試乗会の会場にも展示があったのだが、フロントのサブフレームは、形状を直線に近づけ、左右のサスペンションアームの取り付け点に加わる横方向の力を効率よく受け止められる形状にしている。電動パワーステアリングのモーターは従来よりも小型・軽量化されているし、スタビライザーも新型では中空になっている。同社によれば、120kgの軽量化のうち、車体の寄与率が35%、足回りが15%、シートが10%、エンジンが10%、内装部品が10%、外装部品とドアがそれぞれ5%、残りが10%ということだ。シートだけで12kgも軽量化できたということだが、試乗の際に確認したところでは、シートの座り心地は犠牲になっていない。
フロントサブフレームの新型スイフト(上)と先代スイフト(下)の比較。新型スイフトでは形状を直線に近づけて、横方向に加わる力を効率的に受けられるようにした
この軽量化の効果を競合他社と比べてみると、スイフトの軽さが分かる。例えば、売れ筋グレードと考えられる「HYBRID ML」の2輪駆動仕様の車両重量は900kgだが、これに対してトヨタ「ヴィッツ」の「F」(1.3L)は1000kg、ホンダ「フィット」の「13G Fパッケージ」は1020kg、日産自動車「ノート」の「15S」は1090kgで、競合他社は100~190kgも重いのだ。
確かにスイフトは、全長が3840mmで、競合他車が3945~3990mmなのに比べて短いし、エンジンの排気量がスイフトの1.2Lに対して他社は1.3~1.5Lと大きいので、横並びの比較は不公平かもしれない。それでも、スイフトは競合他社に対して群を抜いて軽いといえるだろう。付け加えると、スイフトのHYBRID MLはマイルドハイブリッドシステムを搭載している車種であり、これを搭載していない「XG」(前輪駆動・CVT仕様)では、さらに30kg軽い870kgという車両重量を実現しているのだ。
リアのドアハンドルはどこ?
新型スイフトは、デザインにも特徴がある。弧を描くような曲面で構成されたヘッドランプや、サイドウインドー下端の部分に丸みを持たせた車体側面の形状、フロントピラーやセンターピラーを黒色に着色してルーフ前半が浮いたように見せるデザインなどは、初代から続くスイフトらしいデザインを継承している。
一方で、新型スイフトでは新たにリアピラーの上端も黒く着色して、ルーフ全体が浮いたような効果を狙っているのもさることながら、ドアハンドルも窓枠の黒い着色部分に埋め込んでしまって、リアのドアハンドルが一見ないように見せるクーペ風の外観としているのにはちょっと驚いた。Bセグメントのように価格が低く、コストに厳しいクラスで、こういうコストがかかるデザインを採用するのは珍しいし、ファミリー向けということを考えると、デザイン優先で使いにくいというクレームが出る可能性もあるわけで、かなり思い切った選択をしたという印象だ。
リアドアの窓枠にドアハンドルを埋め込み、黒色にしてクーペ風のデザインを演出している
こうしたデザインを採用した背景には、スズキの商品ラインアップにおけるスイフトのポジショニングが微妙に変わったことがある。従来のスイフトは、排気量1.3Lクラスの、いわゆる「Bセグメント」のハッチバック車として、先ほど挙げたヴィッツやノート、フィットなどといった車種と正面から競合する車種として位置づけられていた。
ところがその後、スズキの車種ラインアップには、Bセグメントの新規車種として「バレーノ」が追加された。バレーノはスイフトと同じスズキのBセグメント向け新世代プラットフォームを採用する兄弟車種だが、スイフトに比べると全長は145mm長く、ホイールベースも70mm長い。そのぶん室内も広く、荷室容量も大きい。つまり、ファミリー向けに室内空間を重視するユーザーにはバレーノという選択肢ができたわけだ。これと差別化するうえで、新型スイフトはよりパーソナル向けの要素を強くする必要があった。実際、新型スイフトは全長を従来よりも10mm短く、全高も10mm低くして、ほんの少しではあるが、車体を小型化しているのだ。
しかし、である。そのようにパーソナル志向を強めたはずの新型スイフトなのだが、面白いのは、室内空間、荷室とも、実際には従来型よりもむしろ広げていることだ。顕著なのは荷室で、長さを従来より75mmも長く、幅も25mm広くして、容量を210Lから265Lに、55Lも拡大している。全長は短くなっているのに、この75mmをどう稼ぎ出したのかというと、そのうちの50mmは、リアシートを前にずらしたことで生み出している。
では後席が狭くなっているかというと、さにあらず。後席の乗員と、前席の乗員の距離は、従来型よりもむしろ10mm広がっている。つまり、荷室も、人間のスペースも広くなっているわけで、そのしわ寄せは、すべてエンジンルームを短くしたことで吸収している。新世代プラットフォームを採用した効果は軽量化だけでなく、エンジンルームをコンパクトにしても十分な前面衝突安全性を確保できるようになったところにも表れている。パーソナル色を強めたといっても、荷室や乗員スペースを犠牲にしないところに、スズキという会社の真面目さが出ていると感じた。
軽くなっても車体剛性は十分
これだけの予備知識を頭に入れて走り始めよう。スイフトに搭載されているパワートレーン2種類あり、一つは排気量1.2L・直列4気筒エンジンに、ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)と呼ぶスターターの機能を備えたジェネレーター(発電機)とリチウムイオン電池を組み合わせたマイルドハイブリッドシステムだ。ISGはアイドリングストップ後のエンジンの再始動だけでなく、走り始めの駆動力も担う。
このマイルドハイブリッドシステムは、すでにこのコラムの第9回で紹介している「ワゴンR」などに搭載済みの「S-エネチャージ」と同じだ(2月1日に発売された新型ワゴンRでは同じシステムの呼び方が、スイフトと同様にマイルドハイブリッドに変更されたが)。このコラムの第72回で紹介した新型「ソリオ」に搭載されているフルハイブリッドシステムは、今回のスイフトでは搭載が見送られたが、スイフトはソリオと同じプラットフォームを採用しているので、もしフルハイブリッドの評判が良ければ、スイフトに移植するのは容易だろう。なお、この1.2Lエンジンには、マイルドハイブリッドなしの仕様も用意されている。
そしてもう一つのパワートレーンが、先程紹介したバレーノに最初に搭載された排気量1.0L・直列3気筒の直噴ターボエンジンだ。バレーノとの違いは、バレーノ向けがハイオクタンガソリン仕様だったのに対して、スイフト向けはレギュラーガソリン仕様になっていることだ。最高出力はバレーノの82kWに対して、スイフトでは75kWに低下しているが、ユーザーの懐には優しい仕様といえるだろう。
排気量1.0L・直列3気筒の直噴ターボエンジン。搭載されるのはバレーノに次いで2車種目
まず試乗したのはマイルドハイブリッドを搭載したスポーティ仕様の「1.2 HYBRID RS」である。気になったのは、軽量化でボディ剛性が低下していないかということだが、それは杞憂だった。スズキの新世代プラットフォームの車種は、軽自動車用は「アルト」で、1.0LクラスのAセグメント用は「イグニス」で、すでに体験しているが、全体の感触としてはこのスイフトも似ている。ドイツ車の分厚い金庫のような車体剛性というわけにはいかないが、路面からの比較的大きな衝撃が加わってもだらしなく車体が振動することなく、素早く減衰させるので、走っていて気持ちがいい。しかも、当たり前のことだが、軽自動車用、Aセグメント用に比べると、明らかに走行感覚は上質になっている。それでいて、アクセルを踏み込むと、軽量車体のメリットを発揮して、軽快に加速していく。
試乗したのがスポーティグレードのRSなので、足回りは比較的引き締まってはいるのだが、段差を乗り越えたときでも直接的な衝撃を伝えてくることはなく、ダンパーがちゃんと仕事をして、角を丸めてくれるので、不快さを感じることはない。唯一残念なのは、変速機がCVTなので、アクセルを踏み込むと、エンジンの回転数が急激に上昇するため、軽自動車用エンジンの騒音を思わせるようなちょっと安っぽいエンジン音が室内に入ってくることだ。もっともこれは、CVTを搭載しているクルマ全般にいえることだから、スイフトに限ったことではないのだが。
その後に乗ったのが、1.0Lターボを積んだRStというグレードなのだが、これの感触がとても良かった。足回りはマイルドハイブリッドのRSと共通なのだが、CVTではなく6速自動変速機と組み合わされているので、アクセルを踏み込んでもむやみにエンジンの回転数が高まることなく、ターボも強みを生かしてトルクで加速させていく。このため、こちらは3気筒エンジンであるにもかかわらず、4気筒のマイルドハイブリッドよりも走りが上質になっている。3気筒エンジンだから、エンジン音が安っぽいのではないかと懸念していたのだが、実際にはそういうことはなく、全体に静粛性は4気筒エンジンより高く感じた。
最後に、マイルドハイブリッドではない普通の1.2Lエンジンを積んだ「XL」というグレードに乗ったのだが、こちらはRSよりも若干ソフトなサスペンションのセッティングになっている。RSでも不快さはなかったが、こちらは足回りがよく動く分、街乗りではRSよりも軽快に感じる。また、加速時にマイルドハイブリッドのようなISGのアシストがないので、若干加速が鈍いような感じはするのだが、これは比較しているからそう感じるのであって、これだけを乗れば、そうは感じないだろう。ただし、高速道路を走る機会が多く、より安定した走りを求めるならRSのほうが良さそうだ。
燃費についても触れておこう。今回の試乗コースは幕張の一般道路だったのだが、RSのマイルドハイブリッドが燃費計の読みで18.7km/L、ターボエンジンのRStが16.5km/Lという結果だった。ただし、RStは車両の撮影場所を探すために、RSよりも低い速度領域で走る距離が長かったので、同じ条件なら17.0~17.5km/L程度にはなったと思う。RStにはアイドリングストップ機能がないので、そのことも考慮すれば、良好な値といえるだろう。マイルドハイブリッドのRSと、ターボエンジンのRStでは、JC08モード燃費を比べると27.4km/Lと20.0km/Lとかなり差があるのだが、実用上の差はそれほど大きくないと予測できる。
ちなみに、通常の1.2Lエンジンを積んだXLグレードの燃費は18.9km/Lと、マイルドハイブリッド仕様を上回ったのだが、こちらは試乗時間が短く、低速走行の距離も短かったので横並びでは比較できない。いまどきのクルマとして、通常の1.2Lエンジン搭載車や、ターボエンジン搭載車にアイドリングストップ機構がないのはやや首をかしげるのだが、もし筆者が新型スイフトの中から選ぶとしたら、ターボエンジンを積むRStにするだろう。マイルドハイブリッドのRSと、ターボエンジンのRStは、どちらも価格が約170万円で、ほぼ同等に設定されていることも、RStを魅力的に見せている。
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