米クァナジーシステムズの新型ライダー「S3-Qi」を組み込んで小糸製作所が試作したヘッドランプユニット
米クァナジーシステムズの新型ライダー「S3-Qi」を組み込んで小糸製作所が試作したヘッドランプユニット

 「これ以上は私の口からはいえない。どういう意味が分かるだろう――」

 そう言って、その男はにやりと笑った。その男の視線の先には、その男の会社が開発した新型センサーをヘッドランプユニットに組み込んだ試作品があった。

 前回に引き続き、2017年1月に米ラスベガスで開催されたCES2017の話題をお届けする。筆者が訪れたのは、米クァナジーシステムズというベンチャー企業だ。同社はこのコラムの第63回でも取り上げた「ライダー(LiDAR)」というレーザーを使ったセンサーを開発する企業、今回のCESで筆者がどうしても訪ねてみたい企業の1つだった。それは同社のライダーが、非常に画期的な技術を採用しているからだ。ただし「実現すれば」の話ではあるが。

3種類のセンサーが必要

 第63回でも紹介したように、ライダーはレーザーを使ったセンサーである。世界の完成車メーカーや、メガサプライヤー(大手部品メーカー)が開発にしのぎを削る完全自動運転車を実現するには、一般にカメラ、ミリ波レーダー、そしてライダーの3種類のセンサーが不可欠だとされている。なぜ3種類が必要かといえば、それぞれのセンサーには得手不得手があり、苦手なところを補い合うためだ。

 例えばカメラは、物体の形や色を精密に知ることができる。このため、「周囲にある物体は何なのか」を知るためには不可欠なセンサーだとされている。車両の周囲にある物体が、歩行者なのか、自転車なのか、トラックなのか、標識なのかを知るためには、どうしてもカメラが必要だ。また信号の色を見分ける、あるいは標識の表示が速度制限なのか、一時停止なのかを知るにもやはりカメラが必要だ。

 しかし、カメラに欠けている機能は、物体までの距離を測ることだ。もちろん、カメラで距離を測る方法はある。富士重工業のADAS(先進運転支援システム)である「Eyesight(アイサイト)」では、2つのカメラを並べた「ステレオカメラ」を使い、近くの物体ほど、2つのカメラで撮影する画像のずれが大きくなることを利用して、先行車両や前方の障害物との距離を測っている。また、精度は落ちるものの、カメラ1つだけでも、距離を推定する方法はいくつかある。

 しかしいずれの方法も、カメラが撮影する画像から間接的に距離を推定しており、直接距離を測っているわけではない。これに対してミリ波レーダーやライダーは、いずれも物体に電波(ミリ波)や、レーザー光を当てて、それが物体に当ってはね返ってくるまでの時間を測定することで、物体との距離を直接測ることができるので、より正確に、高い信頼性で距離を測ることができるのだ。

物体との距離や形状が正確に分かるライダー

 では、ミリ波レーダーとライダーはなぜ両方必要なのか。ライダーの最大の特徴は、周囲の物体との距離だけでなく、形状も正確に分かることだ。レーザー光はほとんど広がらずに空間を伝わるので、レーザーをある範囲に走査(スキャン)すれば、その範囲にある物体の距離や形状が数センチメートルという小さい誤差で分かる。

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