量子コンピュータで交通流を最適化

 デンソーが出展で力を入れていたのは部品技術ではなく、モビリティ・サービス向けのシステムである。同社はMaaS(Mobility-as-a-Service)システムを開発する米国のベンチャー企業ActiveScalerへの出資をことし1月初旬に発表するなど、このところモビリティ・サービス事業に力を入れている。タクシーやトラックなどの運送事業者が従来使っていた車両の管理システムは、システム規模の拡張や、新たな事業の開発などに対して柔軟に対応するのが難しかったが、ActiveScalerのシステムは、拡張性とモジュール性に優れ、柔軟なシステム開発が可能なのが特徴だ。

 さらに、未来を見据えた展示として筆者が注目したのは量子コンピュータを使った交通流の最適化に取り組んでいることだ。デンソーは昨年12月、豊田通商と共同で、渋滞解消などの実現に向けた量子コンピュータの応用研究に取り組むことを発表した。現在自動車業界で、こうした交通サービス向けの量子コンピュータ応用の研究に取り組んでいるのはデンソーとドイツ・フォルクスワーゲンの2社だけだ。

デンソーが豊田通商と共同で進める量子コンピュータの研究について紹介するパネル
デンソーが豊田通商と共同で進める量子コンピュータの研究について紹介するパネル
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 量子コンピュータは「量子力学的な重ね合わせ」と呼ばれる現象を用いることにより、膨大な組み合わせの計算を同時に実行することが可能で、特定の計算においては従来のコンピュータより1億倍以上の高速化が可能だと言われている画期的なコンピュータである。量子コンピュータには「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」の2種類があるのだが、このうちデンソーが研究に使うのは、カナダのD-Wave Systemsというベンチャー企業が開発した「量子アニーリング方式」の量子コンピュータ「D-Wave」である。

 いろいろややこしい言葉が出てきて恐縮なのだが、この量子アニーリング方式の量子コンピュータは「組み合わせ最適化」といわれる問題だけしか解くことができない。ただしこの組み合わせ最適化問題の中には、交通流の最適化に関連する「巡回セールスマン問題」などが含まれるため、交通流の最適化に量子コンピュータの超高速の計算能力が貢献する可能性がある。ちなみに巡回セールスマン問題とは、複数の都市を一筆書きで回るときに、どんな経路を採るのが最短かを求める問題のことで、近似解を求める手法はあるものの、厳密解を求めるにはすべての経路を計算するしかなく、都市の数が多くなると膨大な計算時間がかかる数学的な難問である。

 デンソーと豊田通商は、タイ国内のタクシー・トラック約13万台に取り付けられた専用車載器から収集した位置情報データを、クラウド接続したカナダのD-Wave Systems製の量子コンピュータ内で処理することで、渋滞解消や緊急車両の優先的な経路生成など、新しいアプリケーションを提案することなどを目指している。

 ただし、量子コンピュータは現在のコンピュータとは計算原理がまったく異なるため、そもそも実際の交通データを、量子コンピュータに解ける形に変換すること自体がまず難しい。また、交通状況は刻一刻と変わるため、計算結果が出たときにはすでに交通状況が大きく変わってしまっていては実用にならない。

 量子コンピュータの本体はカナダにあり、そことは通信ケーブルでつないでいるため、通信の遅延なども問題になる。現在は、効率的なデータの量子コンピュータへの落とし込みや、量子コンピュータを使うと実用的な時間で計算結果が得られるのか、などを検証している段階だ。まだ交通渋滞の解消など、規模の大きな問題への取り組みはこれからだが、タクシーの効率的な配車など計算規模の小さい問題については従来の計算機に比べてかなり早く高精度な解が得られる感触があると会場の説明員は語っていた。

 未来のモビリティ・サービスの姿がどのようなものになるのかは、まだおぼろげではっきりとは見えない。しかしはっきりしているのは、現在のクルマを造って売る、というビジネスモデルの終焉が着々と近づいているということだ。

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