それだけではない。面白いのは、ユーザーの状態だけでなく、ユーザーの嗜好についても理解しようとすることだ。具体的には、「フェイスブック」「ツイッター」などのSNSでユーザーがどんな情報を発信しているか、GPS(全地球測位システム)によりユーザーがどんな場所に行っているか、そしてクルマとユーザーの会話にどんなキーワードが含まれているか――などからユーザーの嗜好を推定する。そのために、世の中のニュース、雑誌、Webに含まれている一般的な情報に比べて、ユーザーの発信するトピックの頻度が高いものを、ユーザーの関心がある話題だと判断する。こうしたユーザーの状態の推定や、ユーザーの嗜好の理解については、ディープラーニングなどの人工知能技術を活用する。

ユーザーの覚醒を支援

 このようにして得た得たドライバーの状態や嗜好についての理解を、次の「Protect」と「Inspire」の機能に活用する。「Protect」の機能では、ドライバーの感情が不安定だったり、疲労が溜まっていたり、眠そうだったりと推定された場合には、室内の色彩を調節したり、精神状態に合わせた音楽を流したりする。具体的には、もし人間を覚醒状態に導くことが必要だと推定される場合は、室内の照明を交感神経を刺激する青い色にしたり、心の落ち着くクラシック音楽を流したりする。

 「Inspire」の機能では、ドライバーの嗜好を基に、ドライバーの興味のありそうなニュースを紹介したり、少し遠回りになっても、ドライバーの関心のありそうな場所を巡るルートを提案したりして、ドライバーに「新たな体験をもたらす」ことを狙っている。

Concept-愛iの内装。人間が話しかけると中央の丸いアイコンが動いたり形を変えたりして反応する
Concept-愛iの内装。人間が話しかけると中央の丸いアイコンが動いたり形を変えたりして反応する

 意外なのは、このドライバーの嗜好を理解する機能が、安全性の向上にも寄与するということだ。先程説明したように、現在の自動運転技術では、ドライバーが常時クルマの動作状態を監視し続ける必要がある。しかし、監視という作業は長時間続けるとだんだん注意力が維持できなくなることが分かっている。今回のCESのプレスカンファレンスでも、トヨタが米国に設立した人工知能の研究機関であるTRI(Toyota Research Institute)CEO(最高経営責任者)のGill A.Pratt氏は、2時間の監視作業で人間の注意力がかなり低下することをデータで示していた。

 この、人間の注意力の低下を防ぐ手段の一つとして、トヨタは「会話」に注目した。人間は興味のある内容について会話をしていると、覚醒状態が維持され、監視の注意力も持続する効果があるというのだ。つまり、クルマがドライバーの嗜好を理解し、ドライバーが興味のある話題について、クルマとドライバーが会話をし続けることは、安全性の向上にも寄与するというわけである。

クルマへの「愛」にもつながる?

 さらにトヨタは、クルマが人間の状態や嗜好を理解する機能を、クルマへの愛着にもつなげようとしている。クルマが自分の状態を気遣ってくれて、自分の好みを理解してくれ、しかも自分の好きそうな話題や場所について知らせてくれる存在になれば、それまでの、ヒトからクルマへ、という一方向的な関係から、双方向的な「ヒトとクルマの新しい関係」が生まれるのではないかと期待しているのだ。

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