マツダは、各社が電動化に力を入れる中で、内燃機関の効率向上に集中する数少ないメーカーである。しかし、かつて同社の看板エンジンだったロータリーエンジンは、燃費や排ガス対策に不利なことから、商品ラインアップから落とされて久しい。ロータリーエンジンの復活を望む声はいまだ根強い。今回のトヨタの発表は、間接的にではあるが、マツダのロータリーエンジンを使ったレンジエクステンダーの技術が、搭載を想定できるほど進んでいることを示しており、ロータリーエンジンファンには朗報だろう。

実用化に向けては課題も多い

 このように非常に画期的なトヨタのe-Palleteだが、トヨタはまず数台のe-Palleteを作り、これを2020年の東京オリンピック・パラリンピックで走らせたい意向だ。具体的に選手を運ぶのか、観客を運ぶのか、実際に走らせる場所はどこか、といった詳細はまだ明らかにされていないが、場所についてはオリンピック施設の多くが集中するお台場地区がその有力候補になるだろう。さらに2020年代の初頭から、先に挙げたパートナー企業仕様のe-Palleteを作製し、主に米国で実証実験を実施したい意向だ。

 ここまで紹介してきたように、いろいろな意味で画期的なe-Palleteだが、本格的な実用化までには、多くの課題が残っている。まず基本的な問題としては、セキュリティの確保だ。先に指摘したようにこれまで完成車メーカー各社は特に安全性確保の観点からAPIを公開してこなかった。APIを外部の企業に公開しながら、いかに車両の安全性、特にサイバーセキュリティ対策をするかは大きな課題になるだろう。

 また、ビジネスという観点では、e-Palleteの運用により発生する「データ」の取扱いも問題になるだろう。例えばウーバー向けの車両では、どこからどこまでユーザーを運んだのかというデータまではトヨタも把握できるが、どんなユーザーが利用したのかということまでは分からない。アマゾン向けの車両でもこれは同じで、どこからどこまで荷物を運んだかは車両側から把握できても、その荷物の中身や、どんなプロフィールのユーザーが利用したかまでは分からない。

 しかし、モビリティサービスを本格的に展開しようと思えば、本来こうしたデータを入手できるかどうかが生命線であり、逆にこうしたデータを入手できないようなビジネス展開では、単に「ハコを提供するだけ」ということになってしまう。「サービスの中身」にどこまで関わっていけるかも、大きな課題だ。

 さらにいえば、サービス向けの車両の場合、ユーザーに対して車両の中で音楽配信サービスや映像配信サービス、さらに広告サービスを展開することも考えられる。しかし、ウーバー向けの車両で、トヨタ自身がこうしたビジネスを展開できるかどうかは未知数だ。こう考えてくると、トヨタはパートナー企業向けに車両を提供するだけでなく、どこかの時点で自らがサービスプロバイダーにならなければ、真の意味でモビリティサービス企業に脱皮できたとはいえないことが分かる。しかしその場合、パートナー企業とは利害が反することも考えられるわけで、このあたりのさじ加減はかなり難しいことが予想される。

 e-Paletteの発表で、トヨタは世界の自動車業界を見渡してもモビリティサービス企業への脱皮で一歩抜け出したといえる。しかしその道のりは、まだまだ難しい隘路が続く。