日本の完成車メーカーと異なり、欧州の完成車メーカーでは車種の全面改良に伴って設備も刷新することが多く、それ自体は驚くべきことではないが、MQBの導入にあたって、VWはそれと対になる技術としてモジュール化・汎用化した生産技術「MPB」を導入したことを表明しており、いよいよVWもクルマの全面改良の度に設備も全面刷新する無駄に切り込み始めたと思っていたので、そのコンサルタントの言葉には、思わず「それは本当か?」と何度も確認してしまった。

 VWは、今回の事件に伴う損失をカバーするために、次世代のMQBの導入を先送りし、次世代のゴルフでは現行モデルの部品の多くを流用することを検討しているとのニュースも伝えられている。これなら確かに開発コストや設備投資は抑えられるが、今度は技術面で後れを取らないかとの懸念は残る。いずれにせよ、開発効率や生産効率といったMQBの本来のメリットをフルに引き出せるかどうかが、今後のVWの命運を左右しそうだ。

中国市場で伸ばせるか

 ここまで見てくると、VWはディーゼル車の不正問題が片付いても、それですべての問題が解決するわけではないことが分かる。だとすれば、トヨタ自動車の世界一の座は、今後も盤石といえるのだろうか。

 そもそも2015年の前半は、世界販売台数でVWがトヨタを上回り、世界一の座を奪還するかに思われた。それが、思わぬ事件でVWは足元をすくわれ、世界一の座は遠のいた。2016年はトヨタが世界一の座を維持するのは間違いないだろう。しかし、今後2020年程度までの世界の自動車市場を見通すと、その状況は決して予断を許さない。世界の自動車販売台数は2015年の約9000万台から、2020年には1億台を突破すると言われており、その最大の推進力は中国市場の伸びだ。中国市場は、2015年の2400万台から、2020年は3000万台以上に増加すると予測されており、世界市場の伸びの6割を占めることになる。

 VWは中国市場で約2割のシェアを占めており、このシェアを維持するだけで、100万台以上の増加要因となる。一方で、トヨタの中国でのシェアは、直近で4.5%程度しかない。トヨタが強い米国市場は、2020年までを見通すと大きな伸びは見込めず、また東南アジア市場も中国市場ほどの勢いはない。従って、各地域でのVW、トヨタのシェアがこのまま維持されると仮定した場合、2020年までにVWが世界一の座に就く可能性は高い。

 従って、トヨタが今後も世界一の座を維持できるかどうかは、中国市場でのシェアを大幅に伸ばしていけるかどうかにかかっている。そのためには、開発の現地化を進め、現地のニーズに合った商品を投入していくことが、これまで以上に重要になるだろう。VWはすでに、現地主導で開発した中国独自の商品を投入しており、成功を収めている。トヨタにおいても、現地で開発を任せられる人材の育成が、当面の最大の課題になりそうだ。

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