このように、一連のリコールに要する費用は、巨額ではあるものの、VWの屋台骨を揺るがすほどの規模にはならない見通しになってきた。ただ、予断を許さないのはリコール以外の費用だ。米国では、大気浄化法に対する法令違反で、最大2兆円規模の制裁金が課される可能性があるほか、米国全体で500以上の民事訴訟が発生しており、これらの判決によっても多額の補償金を求められる可能性がある。
MQBを立て直せるか
このように、VWの一連の事件は、訴訟費用などの面で不確定要素はあるものの、当初予測されたよりは短期に収束する見通しになってきた。これは筆者にとっても意外であるのと同時に、欧州での不正に対してソフトウエアの書き換えや簡単なデバイスの追加で対応できたことを見ると、同社の技術力は依然として衰えていないことを感じる。
そうなると、気になるのが今後のトヨタ自動車との世界一競争の行方だ。VWの将来を占ううえで重要なポイントが、「MQB」を立て直せるかどうかだろう。MQBについては既にこの連載の第24回で、トヨタ自動車の「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」とともに詳しく紹介しているが、簡単にいえば、モジュール化によって車種間の部品の共通化率を高め、開発効率、生産効率を上げてコスト競争力を向上させるとともに、性能・品質をより良くすることを狙った最新のプラットフォームである。
MQBはすでに、VWの基幹車種である「ゴルフ」や、同グループのアウディ「A3」などに採用されており、特にゴルフは2012年秋の全面改良当初、クラスを超えた乗り心地、静粛性、ボディ剛性などで世界の完成車メーカーを驚かせた。当時、TNGAをベースとした新型「プリウス」を開発中だったトヨタ自動車も、設計を大幅に変更して、ボディ剛性の強化を図ったというエピソードを、この連載の号外でお伝えした。このようにMQBは、クルマの基本性能を向上させるという点では大きな成功を収めたが、コスト削減や開発効率の向上、生産性の改善には、当初の目論見ほどつながっていないようだ。
今回の事件が起こる前から、VWでは利益率の低い体質が問題になっていた。VWグループ内で、VWブランドのみの営業利益率を取り出すと、2011年の4%から2014年には2.5%へと落ち込んでおり、MQB導入後のほうが、むしろ利益率は下がっている。アウディの高い利益率に支えられて、グループ全体の営業利益率は5.9%を確保しているものの、トヨタが10%の営業利益を上げているのと比べると、半分程度にとどまる。
この原因については、MQBの開発・生産のために多額の投資をした割に、当初の目論見ほど部品の共通化率が上がらず、生産現場でも混乱があったためだと言われている。また、VWに詳しい欧州のコンサルタントに聞いた話で筆者が驚いたのは、MQBが生産設備の流用を考慮していないということだ。日本の完成車メーカーでは、ある車種が全面改良しても、生産設備は基本的に流用し、必要な部分を手直しする程度にとどめる場合が多い。これに対してMQBでは、次世代のMQBへの切り替えの際に、生産設備も全面的に刷新することを想定しているというのだ。
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