根拠の2つ目は、不正問題の拡大に歯止めがかかりそうなことだ。VWの不正は、米国のディーゼル車から欧州のディーゼル車に拡大し、さらに欧州で発売する車種ではガソリン車も含めてCO2排出量の測定方法で不正があったとされるなど、拡大の一途を辿ってきた。しかしその後の調査で、CO2の排出量に関しては不正がなかったことが明らかになった。

リコール費用も低い

 そして復活が早いと見る3つ目の根拠は、巨額の費用を要すると見られていたリコールも、当初の見通しより損失が少なくて済みそうなことだ。筆者が驚いたのが、2015年11月末に発表された欧州でのリコールの内容である。リコール対象となるディーゼルエンジン「EA189」には、1.2L・3気筒、1.6L・4気筒、2.0L・4気筒の3種類があるのだが、このうち1.2Lのと2.0Lはソフトウエアの書き換えのみ、1.6Lも、ソフトウエアの書き換えに加え、非常に簡単な部品の追加で対応するというのだ。これならリコール費用は少なくて済むだろう。

 筆者がなぜ驚いたかといえば、もっと複雑でコストのかかる対応が必要なのではないかと思っていたからだ。欧州での不正の内容も、米国と同様に、台上試験の間だけ欧州の排ガス規制に適応するようにエンジンを制御するソフトウエアを切り替えるというものだが、その具体的な内容は、路上に出るとEGR(排ガス再循環装置)の働きを弱めるものだったと考えられている。

 EGRというのは、排ガスの一部をエンジンの燃焼室に戻す装置である。なぜそんなことをするかといえば、NOx(窒素酸化物)を減らすためだ。NOxは、エンジン内の燃焼温度が高いと発生する。そこで、燃焼に寄与しない排ガスを燃焼室内に戻すことで、燃焼温度の上昇を抑えるのがEGRの役目だ。しかし、排ガスを燃焼室に戻すと、NOxは減るものの、燃焼が悪化し、燃費や出力が低下してしまうという問題がある。VWは、エンジンの出力や燃費の低下を嫌って、エンジンに排ガスを戻す量を減らしていたと考えられる。

 従って、VWがリコール対策として実施したソフトウエアの書き換えは、NOxを減らすために、排ガスを燃焼室内に戻す量を増やすことであると考えられる。このことは、単純に考えれば、燃費や出力を悪化させるはずだ。VWは、燃費や出力の低下はないと発表しているのだが、もしもそれが可能であるなら、そもそもソフトウエアの不正をする必要がなかったはずで、VWの説明には素直に頷けないところがある。

簡単な対策

 1つのヒントになるのは1.6Lエンジンの対応だろう。1.6Lエンジンだけは、ソフトウエアの書き換えに加えて、「空気量の測定精度を上げるデバイス」を追加するとしている。名前だけから判断すると非常に大げさだが、これは写真を見ると、樹脂製の管の内部に、格子状のメッシュが設けてあるだけの、極めて単純な部品だ。この部品を「エアフローメーター」という、エンジンに流入する空気量を測定する装置の前に取り付けるのだという。

1.6Lエンジンのリコールの内容。管の中に空気を整流するための格子状のメッシュを設けた部品(左)を、エアフローメーターの前に取り付ける(右) (写真提供:フォルクスワーゲン)
1.6Lエンジンのリコールの内容。管の中に空気を整流するための格子状のメッシュを設けた部品(左)を、エアフローメーターの前に取り付ける(右) (写真提供:フォルクスワーゲン)
[画像のクリックで拡大表示]

次ページ 米国では別の対策も必要?