世界の農業分野(主に農薬と種子)は、モンサント、デュポン、シンジェンタ、ダウ・ケミカル、バイエル、BASFの「ビッグ6」がリードしてきたが、昨年末からわずか10カ月の間に6社中5社が絡んだ再編が起き、肥料大手の経営統合も加わった。とんでもないスピードで業界再編が起きていることが分かる。

 このように、世界中である種の資源争奪戦が行われている状況に対応するために、中国は政府として動き出している。ChemChina(中国化工集団)やCOFCO(中糧集団)の例のように、特にバリューチェーンの上流(種子・農薬や穀物)において、中国企業によるM&Aが活発に行われている(■図表3)。

■図表3 中国は食料安全保障を改善すべく、海外のアグリビジネス市場への投資を増やしている
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(1)2016年8月23日、COFCO(中糧集団)はニデラの残りの株式49%を取得することを発表した
資料: Dealogic、マッキンゼー
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 日本も、農業生産に不可欠な「上流」を海外に頼り切りの状態から脱することを検討すべき段階に来ている。

(B) 農業原材料コストの削減

 マッキンゼーの調査では、限定的ではあるがコスト効率を高めている日本の生産者も存在する。ある大型農場は、日本の平均的農家に比較して変動費を6割程度に抑えていたが、残念ながら米国の平均的農家はその約5分の1だ。

 削減のための具体的なアプローチとしては、交渉による単価低減などがあるが、長期的なコスト削減アイデアとして、日本以外では様々な新しい農業生産手法も取り入れられている。米ニュージャージー州ニューアークに本社があるAeroFarmsが取り組んでいる「植物工場」はその一例だ。

 こうした「植物工場」は国内にもプレーヤーが存在するが、世界的には技術革新が急速に進んでいる分野であり、ベンチャー企業が参入している。農業分野はオープンな競争環境であり、今後も大きなイノベーションが起こる可能性がある。日本の農業としても目を離すことはできないだろう。

(C)データに基づくサプライチェーンを含めた
農業バリューチェーンの効率化

 農林水産省のデータをもとにマッキンゼーが分析したところ、生産、輸入された農産物の価格が、生鮮品として消費者の手元に来るまでに倍近くの値段になる計算だ。この生産、輸入された農産物が消費者の手に届くまでのコスト(サプライチェーンコスト)には、輸送コストや卸売市場などの手数料が含まれる。

 この分野のコスト削減の切り札としては、デジタル化による情報活用が中心となる。実際、デジタル化の先進例としては、天候条件等の収穫前データを活用した下流の物流・加工プロセスの調整がある。この最適化により、削減できる物流コスト(生産者・市場間)や、下流への安定的な食材提供という付加価値を生産者に還元することで、農業所得の向上につながる。資源の効率的な活用を通じて、バリューチェーンの最適化と並行して、生産性、効率性の向上を促進している。

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