官民パートナーシップの重要性
根源的課題に取り組むにあたり共通して必要となるのは、様々な局面での官民の連携である。現状では、旅行者のデータの集約やエンド・ツー・エンドの旅行体験の提供へ向けた取り組みは限定的である。世界のベストプラクティス(最も優れた手法)をモデルにした官民パートナーシップ(PPP)を確立し、以下に掲載する図3に示す5つのレバーを中心としたロードマップを構築することが重要となる。
インバウンド観光を推進する5つの施策
上記の図中の、インバウンド観光を推進する「5つのレバー(施策)」について、詳細を以下に記す。
【1】 日本の観光地マネジメントモデル(日本版DMO: Destination Management Organization)を強化する。
日本の大都市以外の地域のサービスモデルが整備されていないことは、日本のインバウンド観光の成長を遅らせる重大な問題である。だが、この課題に取り組むためのネットワークの整備が始まっており、日本には現在、80の観光地マネジメント組織(DMO=観光地域づくりの舵取り役を担う法人)候補が存在している。これらの組織が、組織同士で協力し、また観光庁のサポートを得つつ、全国レベルのマーケティングや、必要に応じて法制化などの諸策を実行すべきである。こうした協力体制は、日本の観光業の拡大が地方の再活性化に確実につながるようにするために非常に重要である。官民パートナーシップの民間部門(企業)のメンバーが、そのサービス、知識、投資、人材を日本版DMO強化のために使用することが必須となる。一方、政府は、リソース(トレーニングや人材マッチング)、予算(立ち上げ段階をサポートする助成金)、技術(実行をサポートするデータベースやアプリケーション)を提供して、こうした取り組みを後押しすべきである。
【2】 旅行者の入国から出国までの旅行体験をサポートするプラットフォームを構築する。
統合されたオンラインプラットフォームの構築により、旅行者の購買行動や嗜好などの情報を捉え、分析し、豊かな顧客体験を提供できる。例えば、ニュージーランド政府のポータルは、観光ウェブサイトのベストプラクティスを取り入れた事例である(http://www.newzealand.com/)。日本でも、こうしたプラットフォームを、旅行者の購買行動や嗜好などの情報を捉えて、分析するシステムとして利用すべきである。
【3】 宿泊施設や観光地のインバウンド観光への対応能力向上を支援する。
現在、多くの宿泊施設や観光資源は海外からの旅行者の取り込みに苦労している。その主な理由には、言葉の壁、オンライン予約体制の不備、非効率的な予約・購入プロセスなどが挙げられる。これらのホテルや観光資源にとっては、この分野で企業や政府機関からのサポートを得ることが大きな助けとなる。
【4】 マーケティングおよびプロモーションに外国人旅行者の視点を取り入れる。
西欧の旅行者の日本の観光資源に関しての認知度向上は、日本のインバウンド観光拡大と多様化のための重要なテーマである。対象となる旅行者に的確に訴求するメッセージを伝えるためには、顧客、すなわち外国人の視点が重要になる。モデルコースや、ウェブサイトのビジュアル、コンテンツをはじめとして、日本の観光資源を海外の旅行者に対して、より魅力的に発信するためのあらゆるものを作成するプロセスに、もっと外国人を関与させてはどうだろうか。
【5】 旅行者を「アンバサダー」にするために、オンラインプロモーションを強化する。
日本の豊富な観光資源に対する外国人旅行者の認知度が上がらない根源的課題の一つは、日本を訪れた旅行者の好意的な印象を広める機会が十分用意されていないことだ。日本を訪れてファンになった旅行者を十分に活用できていないのである。彼らをうまく活用すれば、くちコミ「アンバサダー」として好意的な意見を広め、日本の認知度を自然に高めてくれる。この課題に取り組むため、官民パートナーシップはポータルサイトで観光資源をできる限り効果的にわかりやすく表示し、好意的なくちコミを収集して拡散する機会を提供すべできである。
日本は、官民パートナーシップを通じて様々な関係者の力を結集させることで、インバウンド観光の成長を妨げる表面的な問題だけでなく、根源的課題に取り組み、旅行者の様々なセグメントに日本の魅力を伝えることができる。2020年のオリンピック・パラリンピック開催に向けて、日本には今後ますます世界からの注目が向けられる。この機会を逸しないために、入念に調整された戦略的な行動を取ることが、日本のインバウンド観光のポテンシャルを開花させるために必要である。
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