根源的課題はどこにあるのか

 図1は、今年4月に行ったマッキンゼーの海外旅行者調査結果の一部だ。日本への旅行を検討した西欧人の約40%しか実際に訪日していない。一方、タイではこの値が60%にも上る。

■図1 日本は、アジアからの旅行者の多くを実際の旅行までつなげている(緑色の矢印の部分)一方で、 西欧からの旅行者の多くを検討から実際の旅行への段階で「取りこぼし」ている(とくに赤い矢印の部分)。
■図1 日本は、アジアからの旅行者の多くを実際の旅行までつなげている(緑色の矢印の部分)一方で、 西欧からの旅行者の多くを検討から実際の旅行への段階で「取りこぼし」ている(とくに赤い矢印の部分)。
1.オーストラリア、中国、フランス、日本、ニュージーランド、スペイン、タイ、英国、米国の平均
2.調査のサンプルサイズ= 3,077
資料: マッキンゼーの海外旅行者調査(2016年4月)
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 これは西欧の旅行者が、単に日本でどんな観光ができるのかを知らないことも一因と考えられる。実際、日本の主な観光資源について具体的な情報を提供すると、彼らは日本の観光地に非常に強い興味を示すし(図2)、そもそも日本を訪れた旅行者は高い満足度を示し、再来日したいと答えている。

■図2 西欧からの旅行者は、日本の主な観光地や観光資源をあまり知らないが、一旦情報が提供されると高い関心を示している。
■図2 西欧からの旅行者は、日本の主な観光地や観光資源をあまり知らないが、一旦情報が提供されると高い関心を示している。
1.調査のサンプルサイズ= 3,077
2.コンセプトテストのために選んだ日本の36カ所の観光資源の魅了度順位
3.「その観光資源を知っている」と回答した旅行者の割合
4.「その資源を訪れるために日本に旅行する価値がある」「滞在を延長する価値がある」と回答した旅行者の割合
資料: マッキンゼーの海外旅行者調査(2016年4月)
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「取りこぼし」を解消する必要がある

 インバウンド観光の成長に最大限のインパクトをもたらすためには、「検討」から「実際の旅行」へと進む際の取りこぼしを解消する必要がある。そのためには、西欧からの旅行者に日本が提供できる価値についてよく知ってもらい、いくつかの分野(値ごろ感、観光資源の認知度、ウェブサイト閲覧者からソーシャルメディア上のファンへのコンバージョン、くちコミ)で日本のイメージ向上に取り組む必要がある。

 例えば、日本の観光関連のウェブサイトは外国人旅行者の視点を十分に取り入れたデザインになっていないため、明確で説得力のあるイメージを提供できていない可能性がある。他国に比べて、日本を旅行した外国人は高い満足度を感じているのに、こうした個々の旅行者が日本の「アンバサダー」(日本を好きになって友人や知人などにPRをしてくれる人)として機能していない。さらに、旅行者に対して、前回は訪れなかった観光資源を宣伝するための公式アプリや、旅行後のコミュニケーション体制などが十分に用意されていない。加えて、仮にこうした課題が認識され、都市部で成功したとしても、地方では人材・資金・知見の不足のために差別化したサービスモデルを確立できないと思われる。

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