旅行者の国籍の多様性がなくなり、特定の国への依存度が高まると、業界全体がその相手国の旅行者の購買行動や嗜好の変化の影響を受けやすくなり、その国の政治・経済環境などの変化によって大きなリスクを受ける可能性がある。

 持続可能な成長という日本の目標を達成するためには、旅行者の大勢を占める東アジアからの旅行者に対応しつつ、西欧の旅行者を惹きつけることで、旅行者のポートフォリオを多様化する必要がある。

東京、大阪、京都…、訪れる地域にも偏り

 インバウンド観光が好調でも、その恩恵が日本全国に行き渡っているわけではない。東京都、大阪府、京都府の一都二府のGDPが全国に占める割合は28%だが、インバウンド観光の総宿泊日数の48%、消費の60%が集中している。実際、宿泊日数上位10%の行政区(日本では47都道府県中の5都道府県)に訪日外客の三分の二が宿泊しており、米国の約50%、フランスの46%、ドイツの38%などと比較しても高い集中度だ。

 さらに、訪日外客が実際に地方に旅行した場合でも、1日当たりの消費額は東京・大阪・京都での消費より平均で30%も少ない。試算すると、これは約6,000億円の収入機会を逃していることになる。この資金を大都市以外の観光地が得ることができれば、観光インフラを整備し、施設への投資を呼び込むことも可能となるはずだ。

主要都市の観光インフラのキャパシティ不足

 日本の主要都市の宿泊施設や観光関連インフラは、既にキャパシティ不足に陥りつつある。実際、2020年の需要シミュレーションによると、東京・京都・大阪の宿泊施設は最大50%不足し、羽田・成田空港の航空機の発着キャパシティは最大30%不足する。

 この課題に関しては継続的な取り組みが行われている、例えば政府は、米エアビーアンドビー(Airbnb)などの個人住居のバケーションレンタルや民泊の規制緩和に動いているし、2016年6月に国土交通省は容積率の緩和を自治体に促す通知を発表した。開発業者が主要地域以外に高級ホテルを建設する動きもある。また、羽田空港と成田空港は、2020年までに発着枠を両空港合わせて年間8万便拡大する予定だ。地方空港は、着陸料の一部を免除して格安航空会社(LCC)の新たな路線開設を促している。

 以上の三つの課題を克服することが、2020年の目標を達成するには不可欠だ。このうち、関連インフラのキャパシティ不足については官民で取り組みが行われているため、特に国籍の偏りと訪問する地域の偏りに絞って、根源的課題はどこに存在し、現状をいかに変革すべきかを述べたい。

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