実例を示しながら説明しよう。工場へのIoT技術の適用で最も成功した例の一つはハーレーダビッドソンだ。ハーレーのオートバイは、顧客の好みに応じてカスタマイズして提供するのが特徴で、一台一台を違った部品の組み合わせで生産する必要があり、工場でのオペレーションは複雑だ。
米国ペンシルベニア州にある同社のヨーク工場は、老朽化したために2011年に改築し、最新鋭の「スマートファクトリー」となった。以前の広さは約15万平方メートルだったが、それが6.5万平方メートルになり、従業員も半分になった。それなのに、顧客に納品するリードタイムは2~3週間も短縮し、8~10日分必要だった部品在庫はなんと3時間分で済むようになった。
同工場では、すべての製造・工作機械や部品を載せて動き回る機器などにセンサーが取り付けられており、それらの稼働状態や「今、どこに何があるか」といった状態が、リアルタイムでモニターできる。
顧客からの注文が入ると、必要な部品が手配され、工場内の機械の稼働率をにらみながら生産計画に組み込まれる仕組みだ。加えて、組み立て作業手順は標準化されており、3D画像でも確認できるので、熟練の正社員でなくても作業ができるようになった。
その結果が、前述のリードタイムなどの改善だ。こうした生産方式は「マス・カスタマイゼーション(個別大量生産)」と呼ばれる。それを可能にするのがIoTを核としたデジタル技術であり、インダストリー4.0と呼ばれている。
ここで忘れがちなのが、機械の不具合などによる工場のダウンタイムだ。すべての機械に取り付けたセンサーが、ここでも威力を発揮する。機械の状態をリアルタイムで把握できるので、不具合が発生する前であることはもちろん、定期点検のスケジュールとは関係なく、「摩耗が進んだから先回りして交換した方がよい」というような判断でメンテナンスができる。客観的なデータに基づいた「予測」で、思わぬダウンタイムを回避できるのだ。
さらに、データそのものはインターネット経由で送信されるので、工場にいなくても確認できる。ということは、中東に建設した油田プラントの稼働状況を本国で確認して、メンテナンスの指示を出すということも可能だ。つまり「リモート」だ。
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