確かに、上述のP2Pサービスの例は、銀行から口座を奪っているわけではない。銀行の中核ビジネスである個人向けの預金、貸付、当座預金口座は厳しい規制があるため、入りたくても入りにくい。だがあえて言えば、入る必要もない。

 むしろ口座がないにもかかわらず、何百もの新規参入企業が、消費者ローンや住宅ローン、預金、為替、その他基本的な銀行のサービスを提供している。ほとんどの場合、その企業が自前でそのサービスを用意するのではなく、銀行やクレジットカード会社、為替ブローカーが持つ機能を「利用」しているのだ。

 実は、フィンテック企業の目的は、「顧客との関係」を手に入れ、自分たちの主要サービスを強化することだから、それでよい。膨大な顧客基盤を抱えるフェイスブックその他の「プラットフォーム」企業は、顧客の支払いデータがもたらす商機を狙っている。

 もし彼らが、「フィンテックで儲けなくても、他のサービスの利益向上に貢献すればよい」と考えたらどうなるか。アマゾンがアマゾン・レンディングで儲けられなくても、融資した中小企業が新製品を開発して品揃えが増えた結果、取引が増えればそれでよい、と割り切ったらどうだろう。恐らく、低価格攻勢で既存金融機関のマージンが低下するだろう。銀行が顧客の支払いデータを手に入れられなければ、高マージンのクロスセルの機会も失う。

 つまり既存金融機関は、フィンテックに利用され、顧客に迂回されてしまう危険があるのだ。破壊的な技術を持つ新興のフィンテック企業は、決してフルラインアップの金融サービスを提供しようなどとは思っていない。重装備の軍隊にゲリラ戦を挑むように、特定のサービスに狙いをつけて参入する。顧客がそれを利用すれば、金融機関と顧客との関係を弱め、金融機関の機能を徐々に分解してしまうことになろう。

金融業界の未来は、米国新聞業界の今

 このストーリーはどこかで聞いたことがある。そう、インターネットの影響をまともに受けて、先進各国で一様に苦しんでいる新聞業界、特に米国の新聞社の物語だ。連邦逓信委員会(FCC)が2011年に公表した報告書「The Information Needs of Communities」は、その背景をunbundling(バラバラにする)とcross-subsidy(内部補助)というキーワードを使って説明している。その中身を、日本的に翻訳すればこうだ。

 「インターネット以前は、新聞に掲載されるコンテンツのほんの一部しか読まなくても(例えばテレビ番組欄)、その情報を手に入れる手段が他になかったので、新聞を買っていた。だが、ネット上に、それまで新聞に掲載されている様々なカテゴリーの情報を専門で提供するサイトが現れた。結果として、読者は新聞を買う必要がなくなった。テレビ欄しか読まない読者も、実質的には国会担当の記者の給料を支えていたが、それがなくなった」。報告書はこう書いている。

 The bundle is broken―and so is the cross-subsidy.