トヨタの配偶者手当撤廃が話題に

 歴史をたどると、配偶者控除の前身は戦時中に妻の「銃後の守り」を評価するために作られたものだと、先の石塚教授は解説する。古い家族観といえば、税制・社会保障制度がいまなお「夫が働き、妻は専業主婦、子供2人」という片働き世帯を「標準家庭」とするのも時代遅れだ。公的年金の第三号は、この「標準家庭」を前提とした仕組みである。

 導入されたのは、男女雇用機会均等法が施行されたのと同じく1986年。女性の活躍を促すとしながらも、同じ年に専業主婦は社会保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる「第三号」の制度が導入されたわけだ。女性に対して「もっと働こう」とアクセルを踏みつつ、同時に専業主婦を優遇する制度を導入して就業にブレーキをかけたことになる。この30年、こうした相矛盾する制度を見直そうという声が上がるものの、かき消されてきた。

 ここにきて、ようやく専業主婦世帯を優遇する仕組みを見直す動きが出てきた。その一つが、先述したように配偶者控除を廃止して、共働き世帯も対象にした「夫婦控除」を導入する案だ。対象年収を800~1000万円など一定の上限を設ける方向で検討されている。さらには、現在は課税所得から一定額を引く「所得控除」の方法だが、これを所得税額から一定額を引く「税額控除」に移行する方向が示されている。現在の所得控除は高所得層ほど減税額が大きくなるが、税額控除だと低所得層ほど減税効果が大きくなる。

 格差是正を図るため、税額控除への移行には納得できる。しかし、問題は「夫婦控除」である。一見、女性の就業を後押しするかにみえるが、独身の女性を考えると明らかに公平性を欠く。控除は家族のケア負担に考慮するものだとするなら、親の介護を担う独身者も増えるなか、なぜ夫婦のみケア負担に配慮をされるかが疑問だ。すべてのライフスタイルに中立な税制にすべきだろう。

 見直しの二つ目が、配偶者控除にひもづいている会社員や公務員の「配偶者手当」廃止の動きだ。配偶者控除による税負担の軽減よりも、実際には配偶者控除の対象であることを条件に支給される「配偶者手当」のほうが家計に与える影響は大きいという指摘もある。まずは隗より始めよと、人事院は8月8日、国家公務員の配偶者手当を2017年度から段階的に減額し、課長級は20年度に廃止するよう勧告している。

 人事院調査によると民間企業の7割が配偶者手当を支給しているが、日本経済団体連合が見直しの方針を打ち出すなど、廃止を検討する動きも出てきた。トヨタ自動車が2015年に1万9500円の配偶者手当を廃止、かわりに子手当を月2万円に増額することで労使合意したことはニュースとなった。配偶者控除の見直しとともに、配偶者手当の見直し・廃止の動きは、今度企業の間に広がっていくだろう。

最後に残る国民年金「第三号」の壁

 最後に残る大きな課題が、国民年金の「第三号」である。先のビースタイルの調査にあるように、第三号が適用される主婦パートのなかには、パートに対する社会保険の適用枠が広がると、社会保険料の負担を避けるために就業調整をして年収を引き下げるという人も少なくない。

 就業調整を誘導するような社会保障の「ブレーキ」をそろそろはずさないと女性の就業は進まない。103万円、106万円、130万円の壁を取り払い、収入に応じて応分の社会保険料を負担する仕組みに、段階を踏んで変えていくべきだろう。女性の就業促進という観点のみならず、社会保険料を現役世代が広く負担しないと、高齢化により膨らむ社会保険の支出をまかなえないという事情もある。

 そのためには、主婦パートが収入を増やしていけるような雇用体系、さらには妻が一人で家事育児を抱え込まなくてすむような家庭や社会の意識の転換も求められる。

 1990年代後半に共働き世帯数が片働き世帯数を上回ってもなお、税制・社会保障制度は夫のみ働く「片働きデモル」を標準としたまま。これが時代に合わないものであるのは明らかだ。女性活躍推進をうたうなら、「妻がたくさん働くと損をする」という歪みを正す必要がある。「働きたくても働けない」と女性が訴える社会課題を解決しながら、ライフスタイルに中立的な税制、社会保障制度を目指すべきだろう。