『パリの女は産んでいる』の著書がある中島さおりさん。「専業主婦は肩身が狭い」と話す(写真:松永 学)
『パリの女は産んでいる』の著書がある中島さおりさん。「専業主婦は肩身が狭い」と話す(写真:松永 学)

 フランスで子育てしながら仕事を続けやすい環境が整えられたのは、1980年代のこと。出生率の低下に加えて、70年代に盛んになった男女平等を求めるフェミニズム運動を受けて、「働きながら子供を育てる」世帯への家族政策が促進された。

 フランスでは3歳になると保育学校に全員が無料で入れる仕組みとなっている。3歳まで何とか乗り切れば、仕事を続けることもできる。そこで80年代に3歳までの保育体制が整えられたのだ。保育所に対する財政援助を行うと同時に、保育所不足を補うために自宅で子供を預かる保育ママに対する助成を厚くした。さらに育児休業中の収入補償の対象を広げた。

 こうした取り組みを受けて90年代半ばに出生率が上昇に転じる。「今の子育て世代にとって、子供を持っても仕事を続けるのは先輩の姿からして当たり前のこと。お金がないから、子供を持つことをためらうという声もほとんど聞かない」と『パリの女は産んでいる』の著書がある、翻訳家でエッセイストの中島さおりさんは言う。

専業主婦は肩身が狭い

 いまでは、専業主婦は尊敬されず、肩身の狭い思いをしているとか。「自宅で子供とずっと一緒にいると、退屈する。耐えられないから早く仕事に復帰したい」という台詞を、出産間もない母親はよく口にすると、中島さんは言う。

 もし、日本でそうした台詞をもらしたら、どう思われるだろう。「母親失格」といったレッテルが貼られるかもしれない。日本では、自分のことはさておき子供のケアをするのが「いいお母さん」というイメージだが、パリでは働くお母さん像に切り替わっているようだ。

IT企業の事務職、カトリーヌ・スプロールさんは、仏企業においても「男女差はまだ歴然とある」と話す
IT企業の事務職、カトリーヌ・スプロールさんは、仏企業においても「男女差はまだ歴然とある」と話す

 とはいえ、職場にはまだまだ壁もある。IT企業の事務職、カトリーヌ・スプロールさん(49)は、「今なお職場には男女の差が歴然とある。男性の職業、女性の職業がきれいに分かれている」と感じている。

 カトリーヌさんのような事務職やアフターサービスはほぼ全員が女性、一方で技師や開発研究は男性ばかりなのだ。フランスでは87の職業グループのうち12に女性労働者の約半分が集中している。教員や事務職、秘書、看護師や保育士、また清掃員や家事ヘルパーといったものだ。こうした男女の職業の偏りは、実は日本よりも大きい。これが男女の賃金格差にもつながっている。

 いまだに「ガラスの天井」もあるという。ルノーの人事担当は「重要なポストを決める場で、彼女は子供が3人、4人いるからやめておこうという話にならないとも限らない。気をつけないといけない」と明かす。フランス全体ではパリテという男女平等をめざす理想を掲げて、政治から経済分野まで、意思決定ポストに女性を増やそうとする施策を進める。女性管理職比率は約4割、女性役員比率も3割に達するが、まだまだというのだ。

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