同一労働同一賃金は単体で導入してもうまくいかない

 懸念されるのが、「法令順守」のために、正規と非正規の「職務分離」が行われることだ。同一労働同一賃金が導入されると、正規と非正規との処遇差に合理的な説明が求められるようになるが、実際には難しい。そこで企業側は「説明ができないから、仕事をはっきり分けてしまえ」となり、職務分離が進むおそれがある。そうなると、非正規従業員はステップアップが難しくなり、正規雇用への道が閉ざされる可能性もある。

 働き方改革実現会議に参加したイトーヨーカ堂の人事マネジャーが、「(同一労働同一賃金の導入で)非正規雇用者が定型業務に特化されてしまい、正社員へのキャリアパスを描きにくくなり、今以上に正規、非正規の格差が拡大する懸念がある」と発言したのは、こうした理由からだ。「最も重要なのは、多様な働き方に対応する選択肢を設計して、正社員への登用の機会を設けて実現すること」だという。

 目指すべきは、「職務分離」ではなく「職務融合」。正規も非正規も、性別も国籍も関係なくすべての人が持てる力を発揮できる環境を整えて、企業の活力を高める。そのための同一労働同一賃金であるはずが、表面的に法令順守をするための「職務分離」が起こりかねない。そうしたリスクも念頭に置く必要がある。

「同一労働同一賃金は、目的ではなく手段である」

 経営改革そして雇用改革に取り組んできたりそな銀行に学ぶなら、それぞれの企業が同一労働同一賃金という「手段」を使って達成しようとする「目的」を、まずは真摯に見定める必要があるだろう。

 前出の山田久氏はまた、同一労働同一賃金は単体で導入してもうまくいかないと指摘する。働き方改革、雇用制度改革、そして家族の在り方、社会システムの変革があってこそ真に機能するという。

 メンバーシップ型雇用のどこを残して、どこを変えるのか。男性が稼ぎ主というモデルが崩壊しつつあるいま、夫婦の役割分担をどう見直すのか、税制・社会保障制度をライフスタイルに中立な仕組みにどのように変えていくのか。社会全体のパラダイム転換が求められている。同一労働同一賃金の実現は、非正規雇用者の待遇改善という問題にとどまらない、大きな課題を我々に突きつけている。

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