「全部同じ処遇だと、かえってバランスを欠く」

 コース間の行き来もできる。これまでもパートナー社員から正社員への登用は行われていたが、これに加えて2016年春から、スマート社員への転換も始まった。子育てを理由に、正社員からスマート社員に転換した社員は、昨年は100人ほど。またパートナー社員からスマート社員への変更も昨年は100人ほどいた。一時的な職種変更も可能だという。スムーズな移行ができるのは、同じ仕事なら時間当たりの基本給が同じだからだ。どんな雇用形態であっても、どのグレードにいるかで時給が決まるため透明性が高い。

 ただし正社員もパートタイマー社員も「全部同じ処遇だと、かえってバランスを欠く。金銭的処遇差も必要だ」と人事担当は語る。正社員には、転勤もあれば、トラブル対応・緊急対応にあたる時間外勤務もある。負う責任も違えば、負担感も違う。その分「金銭的処遇差」をつけないと、社員の納得感は得られない。「公平感」を保つには、金銭的処遇差と非金銭的処遇差の双方をにらみながらバランスをとる必要があるのだ。

 そこで、賞与や手当、退職金で差をつけている。例えば、正社員の賞与を100%とするなら、スマート社員は70%、パートナー社員は少額。退職金も、正社員には100%支給されるが、スマート社員は「一部」、パートナー社員は「なし」といった具合だ。手当も、正社員には、住宅手当や子供手当があるが、そのほかの社員にはない。年収換算して比べると、正社員5:スマート社員4:パートナー社員3、といった比率になるという。

 これから同一労働同一賃金を導入する企業では、人件費のアップが気になるところだろう。非正規の処遇改善をする分、正社員の賃金引下げも起こりかねない。りそな銀行の場合、2008年に導入して以来、人件費の負担増はなかったのか。

 同行の場合、もともとパートナー社員の時給水準が高めで、制度変更前の時給でグレードを決めたため、導入時の人件費のアップはなかったという。ただし、その後は評価に応じて上がるか横ばいのどちらかとなる。そこで少しずつ人件費は膨らんでいったが、コスト増のマイナス面よりも、社員のモチベーションが上がることによるパフォーマンスの向上といったプラス面のほうが大きかったという。

 「人件費が膨らんでも、パフォーマンスが向上すれば、総額としてはコントロールできると考えていた」と人事担当。こうした考えにもとづく同一労働同一賃金は、同行の経営立て直しを成功させた故細谷英二会長の置き土産のひとつである。

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