長時間労働をしている「脳」は、酒気帯び程度の認知力?

「6時間睡眠を2週間続けるだけで、私たちの能力は24時間眠っていないのと同じくらい低下する」

「オーストラリアの研究によれば、17~19時間眠らずにいると(多くの人にとって日常のことに違いない)、認知能力は血中アルコール濃度が0.05%(米国の多くの州の酒気帯び運転基準よりわずかに低い値)のときと同程度まで低下するという。さらにあと2~3時間起きていると、0.1%、つまり酒気帯び運転と同程度に達する」

 睡眠不足で頭が働かないのはよくあることだが、酒気帯び運転と変わらない程度だと数値をつきつけられると愕然とする。これを仕事の生産性の低下として換算すると、経済的にも大きな損失だと、同書は畳みかけるように解説する。

「人々が睡眠を削って働いたことで生産性はがた落ちしている。米国労働者一人あたりの低下分は1年間で11日以上、金額にして約2280ドルだ。睡眠不足が『アブセンティーイズム(常習的欠勤)』や『プレゼンティーイズム(出勤していても生産性が上がらない状態)』というかたちで米国経済に与えている損失は年間630億ドルを超える」

 従業員の心身の健康を守るためにも、そして職場の生産性を上げるためにも、休息時間の確保を保証する「インターバル規制」は、効果があるといえそうだ。

実は「残業時間の削減」には、直接の効果はない?

 では、いま導入が議論される「勤務間インターバル」は特効薬かというと、そうばかりとも言えない。

 海外の雇用制度に詳しい雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏によると、ドイツ、フランス、英国などは、11時間のインターバル規制を設けるものの、厳しい違反罰則が国内法にはない。日本で導入しても「『法が守られない日本』では、違法行為が蔓延することも考えられる」と、その効果を疑問視する。

 悪しき前例が「サービス残業」だという。「労働基準法37条1項で、サービス残業自体はすでに禁じられている。にも関わらず、未だに横行している。法律があっても守られない日本社会では、新たに法律を作るだけでは、規制として物足りない」というのだ。

 実効性を高めるには、北風と太陽の両面作戦が必要だろう。労働基準監督署の立ち入り検査の対象を広げるといった北風作戦、また制度を導入した中小企業への助成金制度を導入するといった太陽作戦も検討されている。電通社員の一件をみてもわかる通り、長時間労働は悪であるという意識を高め、社員の健康を守らない企業は許されないという世論を高めることも、外圧となるだろう。

 再び、規制に先んじて制度を導入したKDDIの事例をみてみよう。いま議論の盛り上がる残業削減を実現するうえで、インターバル規制はどの程度効き目があったか、改めて尋ねてみた。

「会社全体でみると、インターバル規制のみで残業が大きく削減されたとはいえない」

 とやや拍子抜けする答えが返ってきた。というのも、導入前から同社はすでに、全社平均で残業は月30時間という水準だった。2016年12月からは「働き方改革」をさらに加速し、今年に入り原則20時以降の残館禁止とすることで、全社の残業時間は月25時間にまで減ったという。

 インターバル規制も含めての「働き方改革」で、残業削減効果が最も上がったのは、新規事業の立ち上げ部署など長時間労働となりがちな部門だ。(残業の上限規制を定める労働基準法の)三六協定の特別条項を適用しない範囲である月30~45時間の水準まで残業が削減された。

 繰り返しになるが、同社のインターバル規制の導入目的は、あくまでも社員の健康を守るため。長時間労働の是正は「労基法の三六協定の見直しと、インターバル規制などを組み合わせれば、効果が上がるでしょう」という。

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