企業と地域、互いの強みを生かす「ステキな農業」のビジネスモデル

写真左:ふるさと納税で畑のオーナーになれる貸農園「ロイヤルファーム・オーナーズクラブ」の入り口。様々なオーナー特典もあり、プロの農家のサポートも受けられる。 右:目指すは「ステキな農業」協力企業団体も多数
写真左:ふるさと納税で畑のオーナーになれる貸農園「ロイヤルファーム・オーナーズクラブ」の入り口。様々なオーナー特典もあり、プロの農家のサポートも受けられる。 右:目指すは「ステキな農業」協力企業団体も多数

 なめがたファーマーズ・ヴィレッジの総敷地面積は約33万平方メートル、そこにさつまいもの菓子加工工場、ミュージアム、店舗やレストランなどの商業施設、貸農園や自家農園などの畑、自然豊かな森、さつまいもの貯蔵庫などを整備する、総事業費45億円という一大プロジェクトです。運営を行うのは白ハト食品工業、JAなめがたと農家が出資した資本金3億円の農業生産法人、株式会社なめがたしろはとファームです。

 「日本の農業をステキにしよう」というスローガンの下、従来の「汚い、きつい、危険」という3K農業を、「きれい、格好いい、気持ちいい」新3K農業に変えようとしています。都会の若者がここに来て、ここで働きたい、行方に住んでみたいと思ってもらいたいと、オープンに向けて人材の募集を行ったところ、県内外から応募があり、中には大学や大学院の新卒者も多数いました。新規雇用は205人、うち150人が地元雇用です。その中には白ハトグループ内の社内立候補制で東京、大阪他から移住し茨城県民となった人が55名おり、うち20名が新入社員です。

なめがたファーマーズ・ヴィレッジの施設と事業内容
なめがたファーマーズ・ヴィレッジの施設と事業内容
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 ここでの仕事は、朝は畑で農業をして、午後はミュージアムの受付やレストランのウエイトレスとして働くといった「半農半Xスタイル」で、誰もが六次産業の従事者です。なめがたファーマーズ・ヴィレッジは第12次産業化を掲げ、農業体験や食育などの観光、遊休公共施設のリノベーション、IT(情報技術)農業、地元や賛同企業と連携したイベント、移住促進や少子化対策、まちづくりなどの地域貢献事業を行おうとしており、ここで働く若い世代が新たな農業カルチャーを創っていくことも期待されます。

写真左:ロイヤルファームにある「和栗の森」会員特典には和栗の木のオーナー権がある。 中:オーナー専用ファームエリア。 右:「トラクターでわくわくツアー」や「キッズサポータープログラム」等、体験メニューもいろいろ
写真左:ロイヤルファームにある「和栗の森」会員特典には和栗の木のオーナー権がある。 中:オーナー専用ファームエリア。 右:「トラクターでわくわくツアー」や「キッズサポータープログラム」等、体験メニューもいろいろ

 今のところ、核となる事業はあくまでさつまいもの加工工場で、農業体験などの観光交流事業はスタートラインに立ったところですが、オーナー制の貸農園「ロイヤルファームオーナーズクラブ」は行方市のふるさと納税の返礼品に組み込まれるなど、行方ファンづくりに向けた動きも始まっています。オーナーになると自分畑を持ち、プロの農家のサポートを受けられるほか、会員専用のBBQ施設の使用や和栗の木やブルーベリーなどのオーナー権が与えられます。茨城県は北海道に次ぐ農業王国で、栗やメロンでは日本一の生産量を誇っていますが、農家民宿や農家レストランなどの事業体数は北海道はもとより長野や新潟にも遠く水を開けられ、群馬や栃木にも及びません。

 これを機に自然豊かな農と食のイメージが定着することを願うところですが、今のところ唯一のネックは、東京からのアクセス。最寄りの水郷・潮来へは高速バス便が充実しているものの、そこからのアクセスはタクシー以外の選択肢がなく、片道数千円とコストも高いため、車がないと利用は難しいのが現状です。茨城県の観光入込客のトップは千葉県、東京都からの入込が少ない理由の一つはこのアクセスの悪さがあります。

 白ハト食品工業は、最終的に行方を選んだ理由を3つ挙げました。一つ目は優れた生産者の存在、2つ目に栽培面積、そして3つ目は農家と一体となったJAなめがたの取り組みとネットワーク力、その思いの強さとこれにかける情熱でした。プロジェクトの実現には県や市の全面的な協力がありました。しかし、ここから先、観光交流などを含めた真の産業化を実現するには、企業やJAだけでなく、地域が一体となった取り組みが求められます。

 なめがたファーマーズ・ヴィレッジの本当の戦いはこれから。この挑戦がTPPにも打ち勝つ、日本の農業の新たなビジネスモデルとなることが期待されます。

旅で見つけたお気に入り(24)
なめがたファーマーズ・ヴィレッジ
バリエーション豊かな野菜王国の新鮮野菜、食を満喫できる人気のレストラン
写真左:商業棟内にある「らぽっぽファームベーカリー」、中・右:ヴィレッジ内の農園や地元農家直送の新鮮野菜をふんだんに使ったビュッフェなどが人気のレストラン「ファームトゥーザテーブルなめがた」とそのランチセット
写真左:商業棟内にある「らぽっぽファームベーカリー」、中・右:ヴィレッジ内の農園や地元農家直送の新鮮野菜をふんだんに使ったビュッフェなどが人気のレストラン「ファームトゥーザテーブルなめがた」とそのランチセット

 取材と言いつつ、取材内容と関係なく一気にテンションが上がる場所があります。今回のなめがたファーマーズ・ヴィレッジにも、個人的に気になる場所がたくさんありました。ここでは本編では紹介できなかったそんなお気に入りの場所を紹介します。

 ファーマーズ・ヴィレッジの商業棟には、地元農家が育てた野菜や地域の特産品が並ぶ「ファーマーズマルシェ」のほか、野菜王国茨城ならではのヘルシーなスムージーが頂けるカフェ、地元農家のおばあちゃんたちの手作りおにぎりや地元野菜の惣菜が頂ける農家キッチンなどのショップが充実。らぽっぽファンには見逃せない、大学芋の詰め放題のコーナーなどもあります。

 ナチュラル・ヘルシー・ビューティという不老長寿をコンセプトとしたらぽっぽブランドのベーカリーには、ポテトアップルパイや焼き芋パウダーで作ったパン、食物繊維豊富なさつまいもや旬の野菜を加えたファーマーズベーカリーならではのパンが並びます。ユニークなところでは、製造工程でわずかしか取れず、市場には流通しない幻の干し芋など、熟成した至高の干し芋がいただける干し芋Bar「おいも熟成蔵」があります。熟成絹の干し芋にチョコがコーティングされたショコラ干し芋、丸干しに燻製もラインナップ。干し芋テイスティングサービス(有料)もあります。

 中でも一押しはヴィレッジ内の農園や地元農家直送の新鮮野菜をふんだんに使ったイタリアンレストラン「ファームトゥーザテーブルなめがた」。人気のビューティベジタブルビュッフェはそれだけでお腹がいっぱいになるほど、野菜と料理のバリエーションがあるのですが、実はこのビュッフェはフードプランナーが監修した、お腹いっぱい食べてもダイエットできるという自慢のビュッフェ。感動するのは野菜や料理のアートのような美しさ。ビュッフェは一幅の絵を見るようです。メイン料理はヘルシーなのにボリュームたっぷりで、茨城県産のつくば鶏や常陸牛、瑞穂のいも豚のグリルやステーキを頂くこともできます。ランチ時には行列ができますが、レストランは夜10時まで営業しています。是非一日滞在してゆっくり楽しんでください。レストランの前には桜並木があり、春には桜の花見をしながら食事ができます。アクセスが改善され、東京から安価に行けるようになれば、ロイヤルファームのオーナーにもなりたいと思う人も殺到しそうです。

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