
2015年10月に大筋合意したTPP(環太平洋経済連携協定)。協定発効後に日本の農業に与えるインパクトを懸念し、農業の体質強化が求められています。農林水産省の「農林業センサス(2015年速報値)」によれば、日本の農業就業人口は10年の前回調査から51万6000人(19.8%)減となる209万人で、1985年時点の542万8000人の半分以下に落ち込んでいます。農業就業者の平均年齢も前回調査の65.8歳から66.3歳へ上昇し、就業者のうち65歳以上が132万6000人(63.5%)を占めます。
一方、小泉政権下の2005年に商標法が改正され、2006年に「地域団体商標制度」がスタート。2007年には「六次産業化」や「農商工連携」を支援する大規模施策が打ち出され、全国で地域ならではの資源を生かした観光や特産品の開発を行う地域ブランドづくりが本格化。ここからご当地グルメやキャラクター、着地型観光など様々なご当地ブランドが派生しました。
農産・加工品の販売やご当地食の提供を行う、道の駅や産直市場型の六次産業化モデルが全国に敷衍し、ご当地ブームの火付け役ともなりました。国交省によれば、道の駅の登録数は1993年度末の122箇所から、2013年には1000箇所を突破。最新の発表で2015年11月現在1079箇所となり、20余年で8.8倍に増えました。
道の駅以外にも各地で産直市場が乱立し、市場は既に供給過剰の状況にあります。赤字の施設も出ていますが、その経営実態は設置登録を行う国交省でも把握していません。道の駅の設置者は2013年7月時点で98.7%が自治体。運営管理を担うのも自治体、三セク、指定管理者、財団等への委託等の半官半民。多くは補助金や自治体等からの補てんを受けて経営を維持し、市場淘汰は進みません。
産直は今スーパー等の一般小売でも人気で、産直というだけで客を呼べる時代は終わっています。先行モデルをトレースするだけの硬直した経営に陥っている道の駅や産直市場型の六次化モデルにも進化が必要で、市場の現状を正確に捉え、総括分析する実態把握も求められるところです。
農水省では農林水産統計「6次産業化総合調査(2013年度版)」で農産物の加工や農産物直売所等のデータをまとめています。2013年度の農業生産関連事業の全国での販売額は1兆8253億円で、うち半数を農産物直売所が占めました。直売所の事業体数は生産グループや農協等が1万670、会社等1390、農家(法人)540等の割合が54%ありますが、最多は農家(個人)1万1110で46%を占めます。
規模別に年間販売額を見ると、農産物直売所では500万円未満が45.3%、1000万円未満で62.6%、農産物の加工に至っては年間販売額500万円未満が75.7%を占めます。観光農園や農家民泊では8割以上が500万円未満です。規模が全てではありませんが、個人事業者などの小規模事業者にできることには限りがあります。
六次産業化など、複合的なビジネスモデルの構築には一定の投資と優秀な人材が必要で、だからこそ本来、道の駅や産直市場がその受け皿となるべきなのですが、地域資源の価値を最大化するビジネスモデルを考え、それを実現できている事業体は一部。商品の多くは域外から仕入れ、地元産品の比率は極めて低い、そうした事業体も散見されます。
そんな中で2015年10月、茨城県行方市に日本初のさつまいものテーマパーク「なめがたファーマーズ・ヴィレッジ」がオープンしました。旗印に掲げるのは「ステキな農業」と「12次産業化」です。コンセプトは「見る」「食べる」「育てる」食と農業の未来をつなぐ、日本初の体験型テーマパーク。いわば農業のディズニーランドです。これに取り組んだのは大学芋の国内販売シェア80%を誇る食品メーカー、国内有数のさつまいも産地の農協、地元自治体のタッグです。自ら奇跡のコラボと呼ぶ、一大プロジェクトの実現と成功要因はどこにあったのか。
今回は地域の農業資源の価値を最大化する行方のビジネスモデルを分析し、地方創生における農業資源の可能性と課題を考えます。
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