埋もれていた観光資源を発掘、提供する試み
ところで、今回の取材で2009年にはなかった発見が一つありました。実は筆者は島根出身で、宮島は子どもの頃から何度となく訪れていますが、これまで一度も宿泊したことがありませんでした。2009年は宮島へのクルーズ船の取材も兼ねており対岸のホテルに宿泊。今回は宮島の宿泊観光調査も兼ね、事前にお一人様でも宿泊可能な宿をリサーチ、「宮島グランドホテル有もと」を選びました。ただ選ぶ際、それほどたくさんの選択肢があったわけでも、詳細に宿の情報をチェックしたのでもなく、なんとなくここが一番良さそうというくらいで、メインはあくまで弥山取材。他の出張があってのついで取材のため、最悪それ以外収穫がなくても良いというスタンスでした。
ところが行ってみると、出張族のお一人様にも快適なホテルライフ、献身的なサービスはもちろん、朝と夜には宿泊客に向けた「ガイドウオーキング」、ナイトライフを充実させる「ロビーコンサート」や宮島の昔話の「紙芝居」、ホテル独自の散策マップなど、宮島を楽しむためソフト・コンテンツと観光コンシェルジュ機能を備えた宿でした。
実は今回ご紹介した宮島の魅力、その楽しみ方を教えてくれたのは、何を隠そうこの宿の夜のガイドウオーキングです。嚴島神社なんて何度も見てるし、前回も写真は撮ったし、今回は別にいいやくらいに思っていた筆者はそこで自分の無知と愚かさを痛感しました。「私は本当の宮島の凄さ、素晴らしさを何一つ理解していなかった!」と。

20時半、希望者は玄関に集まります。ホテルでは宮島の観光をより深く楽しんでもらうため、歴史の解説や背景の説明ができる宮島の公認ガイドに依頼しています。嚴島神社だけでなく、千畳閣や五重塔、その前に咲く花の名、大鳥居に隠された太陽と月の話、潮汐や朝の嚴島神社散策の素晴らしさなど、いろいろ偉そうに書いてきましたが、全てガイドさんに教えていただいたことです。
また出発前の注意事項としてガイドさんが話している間は私語や写真撮影はNG。互いにルールを守って参加者が気持ちよく参加できる配慮もきちんとされていました。ガイドは30分ほど、途中で離脱するのもあり、帰りは三々五々宿に戻ります。夜ロビーではコンサートや紙芝居が行われており、早めに戻って楽しむ人もいます。
今回、紙芝居では昔話で宮島の歴史を知ることもできました。紙芝居はNPO法人宮島ネットワークにお願いしているそうです。昔話は宮島の根源に触れるお話でとても参考になりました。地域のバックグラウンドをきちんと知ると地域の見方も一層深くなります。物語への共感は地域のファンを生み、結果リピーターや口コミによる新たな来訪者を地域や宿にもたらしますが、それを理解し実行している宿泊施設はまだまだ一握りです。
また優れもの、お役立ちと感じたのがホテル特製「宮島てくてく散策マップ」です。地元の人しか知らない見所が実に細かく書き込まれ、もっと宮島のいろんなところを歩いてほしい。知ってまたゆっくりもう一度来てほしい、そんな声が聞こえてきそうです。各観光名所間の所要時間の目安をわかりやすく図式化、お勧めのお店情報も盛り込まれています。とても1泊2日でそのすべてを見ることはできそうにありません。今度広島に行く機会があったら、また宮島に来て次はここを廻ってみたいと思わせる、再来訪の「喚起」ではなく「渇望」を引き出す様々な取り組みがそこにありました。
なんだ、既にお手本はあるじゃないですか。是非この素晴らしい資源を生かして、質の高い宮島観光を実現し、真に世界が認める観光地となって、いまだ欧米豪での存在感が薄い日本のインバウンドを世界トップレベルへ押し上げる原動力となってくれたらと願います。
宮島グランドホテル有もと
http://www.miyajima-arimoto.co.jp/
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