
今、外国人に人気の観光地に日本人が関心を寄せる逆転現象「訪日リバウンド」が注目されています。インバウンド旋風は日本人が気づいていない「日本の魅力、資源」の掘り起こしにもつながっています。
旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」が発表する「外国人に人気の日本の観光スポット」ランキングの2014年と2015年で、1位は「伏見稲荷大社」、2位は「広島平和記念資料館」、3位は「嚴島神社」が2年連続で選ばれました。しかし、その顔ぶれや順位は激しく変動しており、2015年は8位に「サムライ剣舞シアター」、19位に「ギア専用劇場」(本コラムでも紹介)など、エンターテインメントのニューフェイスがランクイン。そして観光名所では20位に「弥山」が入りました。
ところで皆さんはこの「弥山」がどこにあるか、どんなところかご存知でしょうか。弥山とは、広島県廿日市市宮島町「嚴島神社」の背後にそびえる標高535mの山です。天然記念物の弥山原生林は、嚴島神社の社殿や前面の海とともに1996年に世界遺産に登録された構成資産の一つにもなっています。2015年6月には「ミシュラングリーンガイドジャポン」改定第4版において、弥山展望台からの眺望が三ツ星を獲得しました(上の写真)。
しかし、その絶景を目にする日本人は、宮島に来る観光客のうちわずか数パーセントに過ぎません。取材で訪れた3月、弥山山頂で出会った人の多くは、欧米豪などの外国人でした。
今回はこの日本人が知らない「宮島・弥山」から、宮島観光の可能性と課題を探りました。

欧米豪の訪日客は、なぜ広島に集まるのか?
日本政府観光局(JNTO)によれば、訪日外客数は2013年の1036.3万人から2015年には1973.7万人へ、わずか2年でほぼ倍に成長しました。しかし、その内訳をみると増加分のうち9割はアジアからの訪日客で853万人。欧米豪の増加は81万人に留まっています。国や地域別の訪問比率ではアジアからの客が84.3%を占め、欧米豪の比率は15.1%に過ぎません。
そんな中、訪日客の半数近くを欧米豪の客が占めるのが広島県です。2015年1-9月期に同県を訪れた外国人観光客(日帰り含む)46.7万人(前年比1.7倍)のうち、欧米豪の比率は46.7%で、全国平均の15%を大きく上回りました。その中でも群を抜いて高い比率を誇るのが、宮島がある廿日市市です。
「広島県観光客数の動向(平成26年)」によれば、2014年に廿日市市を訪れた外国人観光客(日帰り含む)14万8903人のうち、11万9053人(79.9%)が欧米豪からの客でした。国や地域別で最多はフランス2万2902人(15.4%)、次いで米国2万1040人(14.1%)、豪1万5845人(10.6%)、英国1万2636人(8.5%)の4カ国で47.9%を占めます。
特筆すべきはフランスからの客の比率の高さです。これに関しては2008年に日本とフランスの国交開始150周年を迎え「日仏観光交流年」の記念事業で日仏の政府観光局が協力。嚴島神社の大鳥居とフランスのモン・サン・ミッシェルを共に「海に浮かぶ世界遺産」としてPRする広告ビジュアルを作成、共同でキャンペーン等が行われました。これを縁に2009年、廿日市市はモン・サン・ミッシェル市と観光友好都市提携。廿日市市の外国人観光客数の約9割は宮島来島者が占めます。
廿日市市の外国人観光客数は2008年は14.3万人でしたが、2009年リーマンショックの影響等で11.6万人へ減少。2010年はやや持ち直すも2011年は東日本大震災により7.5万人に激減。2014年になりようやく14.8万人まで回復しました。
観光庁の「宿泊旅行統計調査(2015年速報値)」で広島県の外国人延宿泊者数は73.9万人(全国17位)。アジアからの客をまだ取り込めていないとも言えますが、欧米豪の口コミこそが、全国の名だたる観光地を押しのける高い評価と欧米豪の訪問率に寄与しているのも事実です。「嚴島神社」あるいは「弥山」の何がそんなに欧米豪の客の心を動かすのか。それを知ることは、日本各地でまだ日の目を見ない潜在的資源の発掘と活性化、ひいては欧米豪からの訪日客数を増やすことにもつながるはずです。
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