北海道の着地型観光ポータルサイトから出発

北海道宝島旅行社の「Hokkaido Treasure Island Travel」7泊8日のグリーンツーリズムツアーでは、農業体験や農家民泊も。旅行代金は1人当たり26万~44万円、6人で156万~264万円

 北海道宝島旅行社の設立は2007年。立ち上げたのはリクルート出身の鈴木宏一郎さんです。九州の出身で関西育ち、東北大学卒という鈴木さんと北海道との出会いは学生時代、バイクで日本一周し、その魅力を知ったところから始まります。リクルートでは一貫して営業畑で東京、名古屋、仙台、鹿児島、北九州等を渡り歩き、企業の人材採用や教育研修支援や飲食店情報の「ホットペッパー」事業、自治体の地域活性化の支援等で手腕を発揮。在職17年のうち9年間を北海道支社で勤務しました。

 北海道支社では地域企業の求人と生活情報をセットしてPRする移住促進など、様々な地域活性化事業を通じて道内各地域との深いつながりも生まれる中、次第に残りの人生は北海道のために役立つ仕事がしたいと思うようになりました。在職中、改めて大学院で学び直し、2001年小樽商大大学院商学研究科修了。2005年に、リクルートを同社の「フレックス定年制度」を利用して退職、北海道にIターン。2007年、リクルート時代の部下で、同じく2006年にリクルートを退職した林直樹さんと二人で北海道宝島旅行社を設立しました。そこで最初に取り組んだのが道内の体験型観光の検索・予約サイト「北海道体験.com」の立ち上げでした。

 近年、観光はかつての名所旧跡を訪れる通過型・物見遊山型の団体旅行から、地域ならではの体験や交流を求める滞在型・能動体験型の個人旅行へシフトしています。しかし、多くの地域はそのニーズと自らの地域資源を結びつける術を持っていません。日本版DMOが必要とされる第一の理由は、このニーズと地域資源をつなぎ、地域へ客を誘導するプラットフォームとなることであり、北海道体験.comもそこを目指したもの。道内各地域で滞在・交流を楽しむ「着地型観光」のポータルサイトを創り、交流人口を拡大することによって「北海道ファン」を増やし、リピーターや季節移住、ひいては定住へつなげていこうとしていました。

 しかし、事業をスタートして一年も経たないうちに経営はひっ迫、資金が底をつく事態に陥りました。着地型観光は既に受け皿が確立された観光地を廻るパッケージツアーの造成と違い、地域資源の発掘から客のニーズに合った商品開発、地域の受け入れ態勢の整備まで、一つの商品を作って提供できるかたちにするまで多くの時間と手間を要します。補助金ありきの一過性のモニターツアーであれば、その日だけ拝んで協力してもらうこともできますが、これまでにない魅力的な旅行商品を本気で創るなら、粗製乱造でなく、地域を巻き込むため時間をかけて丁寧な説明や協議を行い、強固な信頼関係とパートナーシップを構築していく必要があります。

 一方DMOの収益はというと、北海道体験.comでは道内に約350事業者、1200以上の体験プログラムを有する現在でも、年間約1万5000組、4万人の利用で取扱量は2億円、手数料収入はその1割の2千万円に過ぎません。この事業は手間がかかる割に収益性は低いのです。ポータルサイトの構築や維持、ランドオペレートにかかる人件費、事務所費等のランニングコストを考えれば、赤字は必至。民間企業の参入が進まないのも当然です。公的支援を受ける日本版DMOであれば何らかの支援策で維持されるところですが、民間企業は資金が尽きればそこでジ・エンドです。

 鈴木さんたちは会社設立と維持のため、友人や先輩等から相次ぐ追加増資を受け、その場をしのぐ日々が続きました。その苦境を救い、起死回生の転換期となったのが、北海道体験.comに寄せられた「現地での移動手段が分からない」「旅行の手配をしてほしい」などの声を受けた2010年の「北海道宝島トラベル」設立でした。2011年に第三種旅行業の免許を取得し、旅行業に参入。社長には旅行業界で実績のある大和寛さんを迎えました。鈴木さんも林さんも旅行業については専門外、その道のプロが入ったことで旅行業として実績を上げて行くことができたのです。

 旅行事業では2つの柱を据えました。一つは増加する訪日需要を見越し、東南アジアを中心とした富裕層FITをターゲットにしたオーダーメイドの北海道旅行の手配を行うこと。もう一つは、札幌近郊の着地型観光商品「地域旅」の開発と販売でした。北海道はいち早くインバウンドに取り組んでおり、2010年度の外国人宿泊客数は全道で185万人、延べで236万人泊に達していました。また札幌の年間宿泊客数は600万人。いずれも大きな可能性を秘めた市場であり、同時に競合も見当たりませんでした。

 富裕層FIT向けのツアーは客の要望に応えてオーダーメイド旅行を手配。通訳案内士が同乗するチャーターカーを基本とし、ストレスなく旅ができると好評で、例えば道内6泊7日のツアーで6人の参加代金が240万円等と高額ながら、北海道人気に円安も重なって問い合わせは急増。「地域旅」では、札幌近郊でできる「石狩の氷上で手ぶらでワカサギ釣り&天ぷら」や「札幌の乗馬クラブで雪中乗馬」等、魅力的なプログラムを次々打ち出し、直近で年間7000人の利用を生み出しています。

サイクリング、カヌーに乗って湿原ネイチャーウオッチング等、季節毎に楽しめる多彩なアクティビティが充実。氷上ワカサギ釣りではテントや釣り道具はもちろん、長靴や防寒オーバーズボンも用意され、プロの釣りガイドが釣りのコツを教えてくれる
北海道宝島旅行社グループの事業ポートフォリオと収益構造
(株)北海道宝島旅行社 (株)北海道宝島トラベル LCC北海道観光まちづくりセンター
●体験型観光検索予約サイト
「北海道体験.com」の運営
事業者数:道内に360
プログラム数:1200以上
日本語・英語に対応
●道内観光地域づくりコンサル
●インバウンドFIT旅行企画手配海外富裕層に向け、贅沢な特別体験をオーダーメイドでツアー企画手配。
●札幌圏の「地域旅」造成販売
※2011年第三種旅行業、2014年第二種旅行業取得
●都市と農山漁村を結ぶ事業
人材育成や企画コンサルティング等
※総務省「地域おこし協力隊」事業、農水省「子ども農山漁村交流プロジェクト」等の支援

 また同年、LLC北海道観光まちづくりセンターを設立。総務省の「地域おこし協力隊事業」を導入する市町村の採用や研修の支援、農水省の「子ども農山漁村交流プロジェクト」や道内各地のサマーキャンプ事業等の支援を担うようになりました。こうしてグループ3社の事業がかみ合い、事業ポートフォリオが構成されて、北海道宝島旅行社はようやく収益を上げることができるDMOのビジネスモデルの形成・確立に至りました。