彼女が戦略的なシナリオを練っていたと推測する理由

 ①の具体的な行動は、まさしく豊洲市場問題の情報公開です。これまでの都知事は2代続けて「カネと政治」問題で辞職をしていました。この現状を受け、いま都民が求めるのは、汚職とは切り離された「公明正大な都知事」です。

 そこで、自ら「盛り土をすると情報公開していたのに、地下空間があった」という非公開になっていた情報を発信し、「徹底的に追及します」という姿勢を前面に出したのが彼女のスゴいところです。これにより、正しいことをする「正義の人」という印象を都民に与えるのに成功しています。

 ②の具体例の一つは、就任直後に発表した、待機児童への緊急対策です。就任後初の8月5日の定例記者会見で、待機児童問題の緊急対策を早急にまとめて、9月の都議会に補正予算案を提出する考えを表明。続けて、自らの宣言を守り、9月9日の定例会見で、待機児童解消に向けた緊急対策案を示しました。

 来年の予算で対応するのではなく、就任直後の年の補正予算で、自ら掲げた公約を守るべく動いた姿に、多くの人は今までの都知事との違いを感じたのではないでしょうか。

 こういった素早い初動が取れたという事実が「彼女は都知事に就任以前から、戦略的なシナリオを練っていたのではないか」と私が推測する所以です。

 彼女はどんな意図をもって、戦略を考えていたのでしょうか。これを考えるために、まずは、就任後のリーダーには何が求められるのかについて考えてみます。

就任後90日が命。GEでたたき込まれた「The First 90 Days」

 就任したばかりのリーダーは、最初の90日が勝負だと言われています。ある調査機関のデータによれば、この90日間での評価が良くないと、約半数が失敗するそうです(1)。逆に90日間ですばらしく良い第一印象と結果を実現することができれば、会社なり組織のトップとして成功すると言われています。

(1): Hogan, J., Hogan, R., & Kaiser, R. B. (2011). Management derailment. In S. Zedeck (Ed.), American psychological association handbook of industrial and organizational psychology, vol. 3: Maintaining, expanding, and contracting the organization (pp. 555–575). Washington, D.C.: American Psychological Association.

 IBMでもGEでも、The First 90 Daysと呼ばれるトレーニングがあり、社長候補や新任事業部長は「あなたはリーダーとして最初の90日に何をしますか?」という問いを与えられて、ビシバシと鍛えられるのです。

 CEOとして一番にやらなくてはいけないことは「チーム作り」です。そのためには「現状把握」が重要になってきます。現状把握のために用いるのが図1のフレームワーク(以下、ステークホルダー関係図)です。

 真ん中は「CEO=自分」で、下が「マネジメントチーム、社員」です。その周囲には、上に「役員会、株主」が、左側にマーケットを加速させる「顧客、パートナー企業」が、右側に公的なイメージや規制などをコントロールする、「メディア、政府、大学関係者」が位置しています。

 この関係図を用いながら、最初の1カ月を使って「誰が100%信頼できる人なのか」、「誰が自分に敵対している人たちなのか」、「その人たちが抱えるのはどのような問題なのか」などを全て分析して仮説を立てていきます。

 私も、GEで事業部長に就任した際には、まず全顧客と全パートナー、自分の全部下など、関係機関を全部、1カ月で回りました。そのためには、多い日だと1日600kmぐらいを駆けずり回ります。

 必要ならば日本全国津々浦々、海外でしたら自分のテリトリーを全部回ることを実行します。時間をかけて調査してから、やっと、仮説が作れるのです。