前回、2008年9月15日に起きたリーマン・ブラザーズ破たんの際、重要な意思決定をする前に、全体像を掴むために、課題(Central Question)を設定し、イシューツリーを作ったことについて書きました。今回は、そこで触れた知らない領域で大きな意思決定をする際、自分の中にある不安にどう向き合って意思決定を進めたのかをご紹介します。

証券会社リーマン・ブラザース破たんのニュースを聞き、タクシーでオフィスに直行。対策会議は着々と進行していったが・・・
証券会社リーマン・ブラザース破たんのニュースを聞き、タクシーでオフィスに直行。対策会議は着々と進行していったが・・・

不安要素は何か? 自分の心を覗く時間を作る

 出張中のニューヨークのホテルでリーマン・ブラザーズ破たんのニュースを知り、すぐにオフィスへ向かいました。当時のGEは、売上全体の4割近くを金融事業が占めており、総資産の8割を超える規模でした。コマーシャル・ペーパーによる短期金融市場に依存した調達をしていたため、リーマン・ブラザーズ破たんで私は会社が危機的状況に陥ることになるであろうと震え上がったのです。

 ニューヨーク・オフィスに設置された「WAR ROOM」(作戦司令室)と呼ぶ会議室に集まった事業開発の幹部たちで、まず何をすべきかディスカッションをし、イシューツリー(詳しくは前編)を作り上げ、自分たちの行動方針を決めました。その中で、私に課せられたのは経験の浅い金融業界での業務でした。今回の危機の本丸です。私は自分の中で不安が高まるのを感じました。

 担当が決まった後、作業に入る前に、私はトイレに行きました。トイレに行ったのは、1人になって自分の心をチェックするためです。これからやる任務は、GE全社員、取引先、お客様に少なからず影響が出ることです。適切な判断ができなければ、GEという会社が存続しないかもしれない。そんな危機意識がありました。

 欲望や不安感などがある場合の意思決定は、マイナスの影響が出ると、ハーバード・ビジネス・スクールのジーノ教授が発表した「不安が意思決定を歪める」をはじめ、様々な研究によって明らかになっています。自分の心の状態をチェックし、今どういう状態なのかしっかりと認識をすること。これがトイレに行った5分間でしようとしていたことです。

 私は以下の質問を自分に問いました。
●不安なことは何か?
●不安なことは自分がコントロールできるものか、できないものか?
●できないものだとしたら、自分が納得できる形で解決できるか、できないか?
●できないとしたら、不安な状態を無視する、もしくは加味した上で、日々の業務をこなせるか?

 こうやって自分に問うことで、自分の心の状態に気づき、自分がコントロールできるもの、できないものに分けられます。コントロールできることは策を講じ、コントロールできないものは諦めるなど、心の中で区切りをつけることができます。

 大切なのは、目の前にある不安だけを見つめることではない。些細なことでも、仕事でもプライベートでも、気になること、不安なことがあれば、仕事に集中できません。集中できないと意思決定の精度が下がります。どんなことが不安なのか?気にかかる要素すべてを洗い出しました。

 このとき、私は不安なことが2つありました。2つの不安に対して、それぞれの問にどう答えたのかをご紹介します。

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