格差の一層の拡大生む購入抑制策

 上海サラリーマンの平均像のようなシャオワンのケースを見ると、上海の新たな購入規制は不動産バブルの抑制に一定の効果は生んでいるように思える。ただ、新規制の導入前に転売を繰り返し日本円で千万単位、億単位の売却益を得たという人たちも、庶民層の中にいくらでもいる。

 さらに懸念されるのは、頭金の比率を引き上げるという形の購入規制で、複数の不動産を所有できるのはますます富裕層や既得権益層に集中し、格差がとりかえしのつかないほど拡大するだろうということだ。実際、気になる動きも出てきている。それは、過去10年、上海に定着して仕事をしてきた地方の農村出身の低所得者層が、仕事と住む場所を求めて中国国内を彷徨い始めたことである。

 私はこの連載で昨年来、中国が2008年の北京五輪や2010年の上海万博の開催に向かって国の建設を進めていたころ、農村からやって来た比較的教育程度の低い出稼ぎの人たちが上海の肉体労働や単純労働を支えてきたこと、その彼らが不動産バブルに伴う家賃の高騰や、経済成長の鈍化に伴う賃金の頭打ちに直面し上海での生活が苦しくなり、その中の一部には、新幹線が開通するなどインフラの整備が進んだ地方の発展に期待を寄せて上海を離れ故郷に戻る人たちが増えていること、しかし、食料など生活必需品の物価は都会と遜色ないにもかかわらず、稼ぎが1500~2000元(4万2000~5万4000円)程度にしかならないのを嫌気し、物価の高騰と就職難で生活して行けなくなった状況が変わらないのを知りつつ、1年程度で上海に戻って来る人たちが出始めていることなどを書いてきた。

給料が頭打ちになった農村出身者

 これらの人たちは上海でいま、いくら稼いでいるのか。私の友人の例のみを紹介すると、物流倉庫の電話営業をやっている中卒25歳の男性は基本給が3000元(5万1000円)、廃品回収をしている中卒42歳の男性は先月の稼ぎが3000元、月~土曜に複数の家の家政婦を掛け持ちしている高卒36歳の女性が3750元(6万3000円)、火鍋レストランに住み込みで働いている中卒16歳の少年が3000元、四川特産の麺料理店で週休半日で働く中卒45歳の女性が3000元だ。

 中国政府の国家衛生・計画生育委員会が2016年10月19日に発表した「中国流動人口発展報告2016」によると、2015年の流動人口、すなわち農村からの出稼ぎの人たちは2億4700万人で、人口の18%を占め、平均月収は4598元(7万8000円)で前年比34%増だとしている。確かに、先に紹介した中卒25歳3000元の彼は2年前、今とは別の会社だが同じ物流の仕事をして月給は4500元(7万6000円)で、政府統計の示す平均像だった。その彼らがいま、上海で何をやっても3000元台の壁を破れないでいる。中国政府が2016年のものとしてどのような統計を出してくるか分からないが、彼らの収入は減少しているというのが現実だ。

 一方で、例えば上海都心部で20平米のワンルームを借りようと思えば、築80年のボロアパートでも4000元(6万8000円)はする。彼らが上海で働きながら1人暮らしをするのはもはや不可能な状況になりつつある。

居場所失う農民たち

 先の廃品回収をしている友人、リュウさんは、息子を高校に進ませず、妻と家族3人で最近、上海に戻ってきた。どうして息子を進学させなかったのと聞くと、「上海なら中卒でも不動産屋のビラ配りをすれば1日100元(1700円)、毎日やれば3000元にはなるから、田舎より現金が稼げる。家族全員で働けば月に9000元(15万3000円)。家族で一緒に住めばなんとかなるから」との答え。廃品価格が暴落する前の2014年当時、9000元という金額はリュウさん1人で稼げた額だ。何より、不動産会社のビラ配り、学生がアルバイトでするにはいいが、高校進学を諦めさせ、さあこれからどうしようという16歳の少年がやる仕事としては展望も希望もなさ過ぎる。

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