「家は住むものじゃない」とうそぶく庶民

上海では異常な不動産バブルが続いている
上海では異常な不動産バブルが続いている

 中国では全国の都市部を中心に不動産の高騰に歯止めのかかる気配が見られないことから2016年9月以降、上海や北京など20以上の都市で購入に相次ぎ制限をかけた。上海では11月末、1つの家族が住宅ローンで不動産を購入するにあたり、1軒目については頭金を最低35%、2軒目については価格や面積によって50~70%の頭金を支払わなければ購入できないとする新たな取り決めを発表した。シャオワンが狙っていたのは頭金70%の対象になった物件だとのことで、「買えば確実に上がって儲かったのに、7割だとさすがに無理だ。今年は大凶だ」と嘆く。

 3年前、上海郊外に100平米のマンションを150万元(2550万円)で手に入れたときには、「ようやく念願のマイホームを手に入れました。頑張って働いてローンを返していきますよ」としおらしく、それでも嬉しそうに話していた。ところが昨年末当たりから、言うことが変わってきた。「日本人は家って、『住むもの』だと思っているでしょう? 中国人は違いますよ。家は、転売して儲けるための『商品』でしかないんですよ」。

 2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災と原発事故を体験し、さらに移民問題や民族問題で激動する昨今の世界情勢を受け、日本人は、確実なものなどないという危機感を、程度の差こそあれ誰もが抱えて生きるようになったのではないかと思う。こうした感覚からすると、家を「転売して儲けるための商品だ」と言い切るシャオワンの考え方はいかにも傲岸不遜に映るが、そういう錯覚を持つのも無理がないと思わせるほどの勢いで上海の不動産価格は急激に上昇している。

狂乱の上海不動産バブル

不動産にマネーが集中したことで、理財商品を扱う業者が店をたたむケースが増えている(上海市内)
不動産にマネーが集中したことで、理財商品を扱う業者が店をたたむケースが増えている(上海市内)

 例えば彼の住む都心部から35キロの距離にある青浦区では、新築マンションの平均価格が2016年1月の1平米当たり1万8400元(約31万3000円。Fang.com調べ。以下同)から、12月には3万2722元(55万6000円)と、この1年で77%上昇の上昇を見せた。これが単価の高い都心部になると、静安区では年初の6万6329元(113万円)から直近で8万2475元(140万円)と上昇幅は25%程度になるが、100平米なら824万元で、日本円なら1億4000万円。そしてこれはあくまで平均価格。上海をぐるりと囲む「外環」と呼ばれる高速外郭環状線の内側のエリア、面積にして東京23区の面積619平方キロメートルより幾分広い680平方キロメートルのエリアで100平米の新築マンションを買おうとすれば「600万元ないとまず無理」(上海の不動産業者)、すなわち1億円が最低ラインというところにまで不動産の高騰が進んでいる。

 利殖に熱心な中国人のご多分に漏れず、シャオワンも株、不動産、投資信託と一通りのことはやっている。そして、シャオワンが一番熱心にお金を注ぎ込んでいる利殖の手段を見れば、中国でいま、何にお金が集まり、何から逃げているのかが分かって興味深い。6~10%の高利回りをうたう個人向けの金融商品「理財商品」がデフォルト(債務不履行)の危機が取りざたされながらもなお過熱していた2014年ごろには、彼も当然のことのように理財商品をいくつか買っていると話していた。それが2015年後半から2016年にかけて、理財商品を扱うノンバンクや投資信託運用会社の路面店で閉店が目につくようになってきたなと感じていたのだが、シャオワンに聞くと、「2015年夏に上海株が暴落してから、理財商品はダメになった。ボクは持っていた理財商品を今年に入って全部処分しました。いくら儲けたって? 最後に処分したのは5万元(85万円)だったかな」。そして処分した理財商品を今度は不動産に注ぎ込もうとしていた矢先、頭金70%の新たな購入規制が出来、「間一髪で儲け損ねた、大厄だ」と、まったく損をしていないのにこの世の終わりのような顔をして嘆いている、というわけである。

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