習近平は発展を心の底から笑っていない

山田:中国には日本の14倍の人口がいるじゃないですか。少ないパーセンテージでもかなりの勢力になります。わずかなパーセンテージの人たちが心に不安を持ち始めて不安定になってきたときの影響というのは、やっぱり看過できないし、軽視はできない。その辺は少し注意して見ていく必要があるんじゃないのかなと思っています。

丹羽:ただ、中国人の性格からいうと、不安を持っていたとしても、それは俺がもっと頑張れば何とかできるかもしれないと思う。そういう感覚が中国人にあるんです。日本人にもそういうところが多少ある。やっぱり自分が頑張れば金持ちになるんだと。

 チャイニーズドリームが今度は自分の番じゃないかと思っていた。それが今、消えつつあるというのは、何十年か前に戦前のアメリカンドリームがなくなってきたというのと同じです。チャイニーズドリームもまだなくなりはしないけど、崩れつつあるスタートだ。終わりの始まりだ。

 習近平もそれを分かっているんじゃないのかな。

山田:分かっていると思いますけどね。

丹羽:やっぱり習近平が本当に今の中国の発展を心の底から笑えないのは、貧困の苦しみを自分が知っているからです。文化大革命の約10年間、彼は相当苦労しています。貧乏な生活というのを分かっている。住む場所が満足になかった。そういう中で雑魚寝をしながら生きていた。

 私もチベットとか新疆ウイグルに行って、お風呂を1カ月とか2カ月入ったことがない人がいるのがざらにいるのを見てきました。

 以前、大使として夜行列車でチベットに行ったとき、せっかくだから三等車に移動してみて、チベットの人に会おうじゃないかと考えたんです。中国の役人はやめてくださいって言ったのだけど、そこを説得して行ったんです。そこには、子供がいたんだけど、やっぱり苦労した生活の匂いがしました。

山田:そうですね。

丹羽:それはしょうがない。水がないんだから。中国人はお風呂に入るのが嫌なのではなくて、水がないから入れないだけです。

 そういうふうに思えば、今は92%は漢民族というけど、その漢民族が本当に支配的になったのは、清朝の終わりのころからです。それまでは例えば唐の時代なんていうのは、ほとんど夷狄とか外部の民族が集まってきていた。唐は100%漢民族の王朝じゃないんです。いろいろな民族が集まっているのに、漢民族がやったように歴史を書くわけ、漢民族が。だから本当からいうと、漢民族よりも移民族です。

 というふうに物事を考えていくと、中国は意外と懐が深いんじゃないかと思うんです。その一部だけを僕らは見ている。あなたが、特にご存じなのは上海で、自分の生活範囲の中の農民工を見ているでしょう。

山田:そうですね。

丹羽:だけど、その範囲外のところにも農民工もたくさんいる。私は北京ではマッサージに行きました。それも日本人が行くところじゃなくて中国人が行くところ。マッサージのお姉さんがどういう生活をしているかというと、やっぱり農民工と同じで、お父さんやお母さん、子供を農村に置いているんです。それでお金を送っているんです。自分はぎりぎりの生活です。

(以下、明日公開の2回目に続く)