日本を代表する中国通といえば、この人をおいていないだろう。元中国大使で、現在は日本中国友好協会の会長を務める丹羽宇一郎氏だ。伊藤忠に在籍していた際には商社マンとして長期間中国に関わり、また中国大使としては中国全土を訪問し、そして中国の要人たちと付き合いを深めてきた。特に、尖閣問題で日中の対立が激化した際には、両国の関係を正常化するために骨を折った姿は記憶に新しい。
今回から2回に渡って、丹羽氏をお招きして対談を行った様子を紹介する。丹羽氏にしか知り得ない中国の現状や、今後の日中関係の行方など、多岐に渡ってお聞きした。

日本中国友好協会会長。1939年、愛知県生まれ。名古屋大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。1998年、社長に就任。2004年、会長に就任。内閣府経済財政諮問会議議員、総務省地方分権改革推進委員会委員長、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任し、2010年、民間出身では初の中国大使に就任。現在、公益社団法人日本中国友好協会会長、早稲田大学特命教授、福井県立大学客員教授、伊藤忠商事名誉理事。著書に、『人は仕事で磨かれる』(文藝春秋)、『中国の大問題』『習近平はいったい何を考えているのか』(共にPHP研究所)、『死ぬほど読書』(幻冬舎)、『戦争の大問題』(東洋経済新報社)など多数。(写真=吉成大輔、以下同)
山田:本日はよろしくお願いいたします。
丹羽:『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』読ませていただきました。私は中国の田舎を歩いていましたから、内容が非常によく分かります。でも、中国の人でも知らないことが多いです。今日も、ある講座に呼ばれて、中国人の企業経営者の方々50~60人の前で話をしてきたんです。ただ、彼らは直接、農民工のことは知らない。
上海や北京など中国のあちこちから来ていました。日本はどうなっているのか、日本人と仕事をするにはどうしたらいいのかなど、そういうことが聞きたくて来ておられる。農民工などの話も当然出てきていて、例えば賃金の格差が大きいという話も問題点としては出てくることは出てくる。
これから中国がどうなっていくだろうかというような話をするときに、隣接している省でも格差が大きいから、一緒に話ができないんです。中国のような、あの広大な国を、今の33の行政区でやっているから難しいんです。
山田:なるほど。
丹羽:中国には3000人の国会議員がいるわけです、全国人民代表大会には。これほどの規模の中で、民主主義的資本主義をやろうとしても、これまでの参考とすべき事例が世界にないんです。中国が初めての試みです。アメリカが一番大きいといっても、人口は3億人ぐらいです。EUは5億人といっても連合体で一国の形にはなっていない。だから14億人の国民を日本やアメリカと同じような民主主義的資本主義で統治できるのか? 未だできないんです。だから独裁じゃないとだめでしょう。
山田:ご指摘の通りですね。
丹羽:今のところはね。だから唯一できる可能性があるとすれば、あの国を会社にして、習近平を本社の社長にする。そして子会社6つぐらいつくって、その子会社に権限を委譲してやるんです。そうすると民主主義的にいろいろな政治ができると思うんです。
ただ、子会社のように分けた場合に、さっきも言ったけど隣と格差があるとうまくいかないんです。
例えば、韓国と北朝鮮が一緒になったら韓国はつぶれます。だって、今の実力からいうと、韓国の人が100払っているのに、北朝鮮は10から20しか払えないわけです。もし一緒になると、おそらく北朝鮮の連中がドーッと韓国になだれ込んでくる。そうすると、韓国は何十倍か知らないけど、負担を追わなければいけないわけです。
山田:負担しなきゃいけないですよね。
この連載「中国生活「モノ」がたり~速写中国制造」が『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』として単行本になりました。
各界の著名人から好意的なレビューをいただいています。
●中国が熱さを忘れつつある中で、中国に対する熱い思いに満ちた本と言えるだろう。さまざまな読み方、活用法がある本と思うが、私には何より著者、山田氏のその「熱さ」が魅力的だった。
(中国問題の研究家 遠藤誉氏によるレビュー「執念の定点観測で切り取った、中国農民工の心?」より)
●もうひとつの違いは、ロウソクの味がするパンしか食べられない貧しい農民工たちの心の豊かさだ。外国人である山田氏と友情を築いた彼らは、自分が食べていくことさえ困難なのに、必ず「ご飯を食べに来て」と招待する。そこに、ホロリとした。
(米国在住のエッセイスト 渡辺由佳里氏によるレビュー「繁栄に取り残される中国の『ヒルビリー』とは?」より)
●しかし、奇妙なことだが、同書を読後、陰鬱な印象かというと、実はそうでもない。同書には、絶望的な内容があふれてはいる。それなのに、なぜか一抹の希望を感じさせられる。おそらく、それはn=1の農民に愛情を込めて付き添ってきた著者の生き様に、読むものが感動を受けるからだ、と私は思う。
(調達・購買コンサルタント/講演家 坂口孝則氏によるレビュー「年収3万の農民に未婚の母、中国貧民の向かう先」より)
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