山田:でもそれは、すごく勇気が必要だったと思います。

 それと『歴史で読む中国の不可解』(日経プレミアシリーズ)では、「正統」について中国がどのような考え方をするのかについてのくだりも、非常に納得がいきました。「今の共産党政権が『正統』なら、ほかの政治勢力はすべて従順たるべし、さもなくばそれは、『偽』の政権であり、否定すべきものだというわけである。このあたり『三国志』の昔から、ほとんど変わっていない」と。

岡本:特に中国語圏である香港、台湾がまずそうですね。

山田:これだけでも頭に入れておいて、新聞を読んだり、ニュースを見たりすると、だいぶ違うと思いますね。

岡本:我々は歴史を扱っているので、その辺は当たり前なんです。正統派の「正統」ですが、まったく違う意味合いで、普通の日本人にはなじみが薄くて、とても難しい概念ですね。それは中国の資料や歴史書を読んでいたら普通に出てくる話なので、我々の業界では、ことさら強調しないんです。

 ただ、ほかの政治学の人たち、例えばアメリカ研究をやっている人たちと話すと、彼らにとってはちっとも常識じゃない。同じアカデミズムの中でもそうです。しかし、ビジネス界など中国を相手にしないといけない人たちがいっぱいいる中で、これら東洋史のことを、学者の中だけでとどめておいていいわけがないんですよね。

 そこの垣根はちょっと低くした方がいいはず。でも何か歴史の「正統」論とか言うと、すごく難しくなっちゃって、そのへんの塩梅をうまくするのはやっぱり難しい。

今のことを考えるのに歴史にも目を向けて

山田:いや、先生の著書は勉強になります。本当に知識が付く。どんどん還元してください。

岡本:人間の知識欲とか、関心とかいうのは、それほど衰えてないと思うんです。特に年配の方々は。ですので、もちろん学術をきっちりと養成していく側面はとても大事です。ですが同時に、そういう学術を支えるためにも、やっぱり間口・すそ野は広くしていきたい。

山田:本当に今は、経済の理論とか企業の理論で何でも動き過ぎだと思います。

岡本:私とかがしゃべりに行って、どこまで関心を持っていただけるかは分からないのですが、ただ少し歴史にも目を向けながら、今のことを考えていただきたいというのが、声を大にして言いたいところです。

今まで誰も描くことのなかった中国版ヒルビリー・エレジー
3億人の中国農民工 食いつめものブルース

この連載「中国生活「モノ」がたり~速写中国制造」が『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』として単行本になりました。各界の著名人からレビューをいただきました。

●私はこの例外的に「間合いの近い」取材方法を成り立たせるために著者が費やした時間と労力を多とする。長い時間をかけて、息づかいが感じられるほど取材対象の間近に迫るというスタイルは現代ジャーナリズムが失いかけているものである。
(哲学者 内田樹氏によるレビュー「感情の出費を節約する中国貧困層のリアリズム」より)

●「ブルース」という単語に何とも(やや古びた)哀愁があり、そしてカバーの写真の農民工の写真には、記念写真では決して撮れない、私自身が感情移入して泣いてしまいそうなリアリティがある。
(中国問題の研究家 遠藤誉氏によるレビュー「執念の定点観測で切り取った、中国農民工の心?」より)

●だが、最近の日本のソーシャルメディアでは、「親の時代はラッキーだった」、「親の世代より、子の世代のほうが悪くなる」といった悲観的な意見が目立つ。中国においても、農民工の楽観性や忍耐がそろそろ尽きようとしているようだ。
(米国在住のエッセイスト 渡辺由佳里氏によるレビュー「繁栄に取り残される中国の『ヒルビリー』とは?」より)

●同書で描かれるのは、時代と国家に翻弄される個人たちだ。歴史的背景や、共産党政権の独自性うんぬんといった衒学的な解説はさておき、目の前で苦悶している、もっと距離の近い苦痛の言葉だ。
(調達・購買コンサルタント/講演家 坂口孝則氏によるレビュー「年収3万の農民に未婚の母、中国貧民の向かう先」より)