全8116文字

岡本:日本の中国研究は、現代を研究する人と、それから昔のことを研究する人とが、もう全然乖離している。どんな地域研究でも、多かれ少なかれそういうことはあると思うんですが、中国研究はものすごくそれが顕著だと思います。

 例えば、中国の古典は中国語ができなくても読めちゃう。漢文が分かれば。ですから、日本語だけでやれる。一方で、現代を研究している人は中国語はできるけれども、漢文が読めない。これが典型的な事例です。さすがに最近はもうそういうことがないですけれども、それこそ我々が大学に入ったころだと、「歴史を学びに来たのだから、別に現代のことはどうでもいいわ」みたいな雰囲気はありましたし、私自身そう思っていました。

 ただ、これだけ中国との間で行き来があって、我々のような歴史屋も資料を探しに向こうの方に行ったりとかになると、現在の状況が無縁だとはいかなくなってはきている。かといって、現状分析とかに歴史の視点から口を出すとか、あるいは現状の人たちが歴史に対して近寄ってくれるかというと、そこの行き来は非常に少ないなと。

 現状の中国研究に関しては、人がどんどん増えて来ています。一方で、歴史の方はすそ野がどんどん狭まってきて、誰もいなくなってきつつある状態です。大学の中国史研究室というと、ほとんど中国人の留学生で占められます。

山田:そうなんですか。

岡本:これは山田さんとも意気投合する部分だと思うのですが、ある程度以上の時間軸を取って見ると、中国は目まぐるしく変わっているようで、実は中身はゆっくりとしか動いてない。そうすると我々からすれば、現状の研究はどんどんやっていただいていいですが、もう少し歴史的な、昔のことを知っていただくと、いろいろ幅が広がるのではと思います。

 逆に自分たちの業界で言えば、もう少し現状の人たちと積極的に交流をして、説得したりとか、あるいは間違いを正してもらったりとか、そんなことがあってもいいと思います。シンポジウムや研究会にはいくつも出ているんですけれど、やはり意識とかの点でなかなか共有できていない部分の方が多いんじゃないかなと思います。

 私は、幸か不幸かいろいろなご縁があって、ビジネス誌にも書かせてもらったりしています。ただ、歴史の業界の中だけにいらっしゃる方々からすると、「お前何してんねん」みたいな感じはやっぱりありますね。

日本人は中国に興味を無くしている

山田:そうですか。でも歴史に興味を持つ日本人の学生が減っているというのは、ちょっと深刻な問題ですね。

岡本:そうですね。非常に卑近な例で言いますと、私は歴史学科に所属していますが、ここには歴史を勉強をしたい人が来て、1年に40人ぐらい採るんですね。そこで日本史と外国史の比率がだいたい3対1です。外国史を学びたい10人ぐらいの7割が西洋史です。

 そうなるのも仕方がないとは思うんです。世界史の教科書を見ても、東洋と西洋の比率がその通りなので。毎年ゼロにはならないので、その辺はいいのかなとか思うんですが。

山田:私は、とにかく日本人は『水滸伝』と『三国志』が大好きな人というのが一定数必ずいるので、いまでもそういう人がたくさん集まってくるんだろうと思っていました。中国史については鉄板というか、心配ないだろうと思っていたんですけれども。

岡本:そうではなくなってきていますね。昔はおっしゃるように『三国志』に興味を持ったら歴史に来て、『水滸伝』に興味を持ったら文学に行くみたいな感じだったと思うんですけど、我々の世代までは。

山田:今の話を伺うと、日本人が中国人に親近感を持たないというのは、歴史についても興味を持つ人が減っているということも関係しているんでしょうかね。