山田:僕はなります。星野さんが中国人が好きっていうのは、どんなところですか?
星野:私は小さいころから、10代ぐらいから日本に対する違和感が強かったので、なぜ日本がこうなんだというのが不満だった。中国に行って、中国人の価値観を知ったことで、日本の息苦しさについて考えるようになったんです。
時代的なものもあるかもしれないですけど、日本は必死に生きているのがかっこ悪いみたいな感じでしたよね。学歴とか、どこの家の出身とか、親がどれだけお金を持っているとか、何かそういうことで威張っている子がいっぱいいた。だから、自分の才覚でどんなみっともない生き方をしても、お金を持ったやつが勝ちという香港人や中国人の価値観が自由に思えたんです。
山田:日本の自由とは違いますね。
星野:彼らの自由は、また一人ぼっちじゃだめ、寂しくて。家族のためとか、そういうのが絶対にある。孤独があんまり好きじゃない。
山田:でも最近の中国の物欲がぎらぎらしているのは苦手なんですよね。
星野:そうなんです。要はお金を持っている人たちが、買えるから買いたい、という欲望が、宙に渦巻いているのが好きじゃない。農民工の人たちが必死に働いてお金が欲しいとか、それとはまったく別物の欲望。農民工の人たちが持っているのは、欲望じゃなくて夢ですね。
山田:昔の中国は何が魅力的だったかというと、社会主義で全体的に貧しかったけれども、そういう中でお金儲けにむき出しの人がいたからということですよね。懸命とか必死とか。生身の人間が感じられるというのかな、
星野:自分たち日本人だって、戦後の焼け野原ではそうだったと思うんです。それはもう遠い昔になってしまって、私たちの時代は何か生存に一生懸命というのがあり得ないみたいな、しらけ方をしていたので。それを中国の人は教えてくれる、「生存というのはこうやるんだよ」と。そんなことは、日本では誰も教えてくれませんでした。
ウイグルにはもう一度行きたい
山田:最後にノンフィクション作家の星野さんに質問を。もし今、中国でネタを探しに行くとしたら、どんなことを取材しに行きたいですか。
星野:考えたことないですね(笑)。でも、ウイグルは行きたい。ウイグルって私のイメージする楽園だったので。
山田:どうしてですか?
星野:ウイグルには長い時間をかけた東西交渉の歴史があって、東と西の血が混じっていて、いろいろな顔をしていた。そして乾いた土地にブドウとメロンがたくさんなっていて、冷たい水のせせらぎがちょろちょろとあって、道行く子供たちがみんな、こうやって手を振ってくれて、牛乳とヨーグルトがおいしかった、本当にその通りだったんですね。
それがいまや、中国に弾圧されている。中国が本来持っている多様性をないがしろにしたら、いつかは墓穴を掘ることになる。私は1987年以来、ウイグルに行っていないので、今どうなっているのか見てみたい。
山田:本でも紹介しているけど、農村出身で今はウイグルで笛を勉強している青年がいるので、その際にはぜひ訪ねてください。
今日はありがとうございました。

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