『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』を上梓したのを機に実現した、ノンフィクション作家の大先輩・星野博美さんとの対談の2回目。星野さんは、相変わらず貧富の激しい状況が改善しない中国に疑問を呈するとともに、嫌中派の人には、もっと中国を知ってもらいたいと訴える。

(前回の記事「チャラチャラ感が加速する中国は崩壊目前」から読む)

星野 博美(ほしの・ひろみ)
1966年東京都生まれ。作家、写真家。『転がる香港に苔は生えない』(文春文庫)で第32回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『コンニャク屋漂流記』(文春文庫)で第2回いける本屋大賞、第63回読売文学賞「随筆・紀行賞」受賞。その他の著書に『謝々!チャイニーズ』(文春文庫)、『銭湯の女神』(文藝春秋)、『のりたまと煙突』(文藝春秋)、『島へ免許を取りに行く』(集英社)、『戸越銀座でつかまえて』(朝日新聞出版)、『みんな彗星を見ていた』(文藝春秋)、写真集に『華南体感』(情報センター出版局)、『ホンコンフラワー』(情報センター出版局)などがある。最新書は『今日はヒョウ柄を着る日』(岩波書店)。(写真=深澤明、以下同)

山田:香港を見ていると、やっぱり大人たちがもうちょっと何とかしないと、というところですよね。

星野:そうなんです。大人に絶望しちゃったんです、香港の若者たちは。大人たちが中国と手を組んで俺たちを切り捨てたというふうに感じているんですよ。だから世代断絶もすごく深刻。

山田:大人から子供までピュアという感じでしょうか。若い子たちはピュアでやらせてもいいけど、それを後ろでもうちょっと大人たちが交渉するなり、根回しするなりすべきだと思う。地ならししてやらなきゃしょうがないだろうと思いますね。

星野:もちろん40~50代で精神的に支えている人もいたし、私の友達なんかもデモに行ったりしていたけど、そういう人ってやっぱり少数派ですね。

 あと香港人って50歳になったらもう引退モードに入るじゃないですか。人生のスピードがすごく速い。そうすると、老後を考えると、あまり動乱を大きくしたくないとなりますね。

山田:返還のときもそうなのですが、香港の場合は民主派がとにかく頭でっかちというか、きれいごと過ぎるというところがとてもある。

星野:香港の古い民主派は超インテリです。まったく庶民からかけ離れている。市場でかんかんがくがくやるような人たちじゃない。そういう人たちが交渉などで中国共産党とはやりあえるわけがない。

山田:やれるわけがないですね。

星野:香港はいまも中国から1日150人の移民を受け入れていますが、計算だとあと20年も経つと香港人より中国人の方が多くなります。そうなると、中身が入れ替わっちゃう。香港という箱はそのままで「一国両制」といいながら、中身を入れ替えちゃうんです。私の想像ですが、それこそ中国が香港に対して目論んでいることでしょう。

山田:入れ替えちゃえばという発想ですか、すごい。多分、星野さんの指摘通りでしょう。

星野:どんどん、どんどん中国人を送り込めばもう香港人は嫌になっちゃうでしょう。選択できる人は香港人なら外に出ていきます、何もしなくても。中国にとっては、弾圧なんかしなくても、毎日150人送り込めば、自然に出ていってくれる。カナダとかオーストラリアとか。

山田:でも一方で行き場のない人たちもいるでしょう。

星野:だから香港の底辺にいる人たちは、濃いスープの一番下のどろどろとしたようなところに永遠にずっといることになってしまう。

 私はこういう人たちにすごいシンパシーがあるから、山田さんの本を読んで、面白かったと言うのもあるけど、中国の底辺層の人たちの話を読むと、何か怒りを覚えますね、やっぱり。

山田:そうですね。