星野:「改革開放」政策が提唱されて、鄧小平が1992年には南方講話(注2)を行った。それで、特に南中国から先に自由化されましたが、その時代に私はちょうど南中国を旅していました。そのとき、社会主義しか知らない人たちが資本主義になるときの何でもありな欲望みたいなものを目の当たりにしたんですね、旅をしている最中に。それは本当に、生まれて初めて資本主義というものをゼロから学ぶ人たちのパワーと面白さ。そして、全員スタートラインについて一斉に走りだすみたいな、平等な感じがあったんですよ。土地が高騰して誰かが濡れ手で粟で大金を手に入れるということではなくて。

(注2) 鄧小平が改革開放の加速を主張した一連の講話。1989年の天安門事件以降、保守派が握っていた主導権を取り戻した。

山田:確かにそうですね。

洗面器の水で商売をする才覚

星野:大金を得た人はほとんど密航者とその家族。それなりに命を懸けた人しか大金は得られないみたいな、すごくフェアな競争だった。その、海賊みたいなアウトローさには好感を持ったんですね。この資本主義だったら私は容認できるという感じ。

 前に『愚か者、中国をゆく』に書いたことがあるんですけど、あるとき人民が大勢いる駅でへとへとに疲れて座っていたら、隣にぼろぼろの服を着たおじさんが水を入れた洗面器を置いたんです。そこには1角(0.1元)とか2角といった値段が書いてあって、これで顔を洗っていいぞという商売を始めたんです。それを見たとき感動して。駅に入って洗面所へ行って手を洗えばいいんだけど、人民がいっぱいいるからそこに到達するのがものすごく大変。そうすると洗面器に公共の水一杯だけでも商売になるんだと。

山田:アイデアと才覚でお金儲けができる。

星野:そうです。それで少しお金がたまったら、今度はリンゴを売ったりすればいいという。本当に資本主義の原始形態を見たんですよ、そのときに。

山田:日本にいたら決して見られないですね。

星野:そうなんです。私はバブルを経験した、ものすごいチャラチャラした世代だったので、これはもう日本は負ける、とそのとき思ったんです。

 ただ、常に私は言っているんですけど、日本は戦後、40年ぐらいかけてやっとチャラチャラしたのが、中国はもっとスピードが速いんですよね。だから退廃も堕落も崩壊もすぐ来ると思うんです。

山田:そういう意味では、中国経済がすごくなって、強国になって、そして2大国と言うけど、私はそこまでじゃないだろうと思うんです。今はちょっとチャラチャラしているじゃないですか。

星野:この中国の繁栄というのが、農民工の人たちまで豊かになっていたものだったら、本当の強国だけど、絶対そうはならないですよね。

山田:そうですね。

星野:中国人は根本的に、平等が嫌いだから。平等が嫌いだから、無理に革命を起こさなきゃいけなかったので。

山田:中国人が平等が嫌いと感じるようになったのは、何がきっかけですか。