「郭氏出馬に意欲」の報道が出た当日、台湾の有力紙『聯合報』が自社サイトで、「郭氏が2020年総統選に立候補したら投票するか」についてアンケートをとったところ、「投票する」が12万5000票あまりで回答者の82.5%を占め、「投票しない」の1万7000票あまりを大きく上回った。同じ日に、壹周刊と同じ壹媒体が経営する日刊紙『蘋果日報』が行ったネットのアンケートでも、「2020年の総統選に郭台銘氏と現職の総統で民進党の蔡英文氏が立候補したらどちらに投票するか」の問いに、回答者の68.29%が郭氏に投票すると回答し、31.71%の蔡氏を大きく引き離した。

 郭氏自身は記事の出た翌日の11月17日、訪問先の中国浙江省烏鎮で香港の衛星テレビ『鳳凰衛視』対し、「(総統選に出馬する)そのような考えは元々全くない。メディアがデタラメを言ってるだけだ。冗談としてなら面白いが」と述べ、報道を否定している。

 しかし、郭氏が現職の蔡氏を大きくリードした先の2つの調査結果を受け、台湾では郭氏の総統選参戦を巡る報道や議論が一気にヒートアップ。壹周刊の記事で、トランプ氏当選の夜、郭氏に電話をかけて出馬を打診したとされる国民党では、立法委員(国会議員に総統)の許毓仁氏が総統選出馬を支持すると表明。そればかりか与党である民進党でも、党の重鎮で前立法委員の林濁水氏が、「蔡氏の支持率が下がり続ければ、郭氏に対する待望論が高まるだろう」と述べ警戒感を示した他、民進党を離党した前立法委員の沈富雄氏は、「期待に値するリーダーだ」などとして郭氏出馬への期待を示した。

トランプ支持とダブる背景

 この林氏が指摘したように、台湾で「郭氏総統選出馬」のうわさが出、議論が盛り上がりを見せているのは、郭氏本人に対する市民の期待の大きさと言うよりもむしろ、就任半年が経過した現職の蔡総統に対する失望が表出したという意味合いの方が大きいようだ。台湾の日刊紙『中国時報』(11月19日付)で台湾当局系のシンクタンク台湾工研院のアナリスト杜紫宸氏も、「既得権益を持たない層の現状に対する不満がトランプ大統領を誕生させたが、台湾もいま、似たような状況が生まれつつある」と指摘している。

 今年1月の総統選で56.12%の得票率で、当時、与党だった国民党、親民党候補に大差をつけて当選した蔡氏だったが、支持率は下落傾向にある。シンクタンク台湾世代智庫が就任1カ月、100日、2016年9月、同10月に行った支持率調査では、「満足している」が62.1%、53.0%、49.0%、50.6%と推移してきたが、11月21日に発表された就任半年の最新調査では43.8%とこれまでで最低となった。

 前総統の馬英九氏は、「中国と緊密な関係を築けば台湾の経済も好転する」とし中国との接近を図った。しかし、一部の既得権益層を除けば庶民の大半は給料も上がらなかったことから、中国との自由貿易協定の締結を強引に進めようとした馬氏と国民党に市民が反発。これが、中国との間に一定の距離を取る民進党の蔡氏当選の大きな要因の1つになった。

 ところが、蔡氏就任後の支持率調査に伴う庶民の声を見ると、経済や生活に漂う閉塞感、停滞感は前政権時代と大差なく、一方で、民進党政権の誕生で台湾に対する態度を硬化させた中国との関係が極度に冷え込んでしまったことを心配するものが目立つ。半面、先の就任半年目の支持率調査では、「2025年に原発ゼロ」を目指す法案を提出したり、同性婚合法化の審議を進めたり等の政策が評価され、「蔡総統は今後の台湾を正しい方向に導いてくれる」との意見が51.6%に上った。