そしてこの文書は次のページで、新中国の絶対的な偶像である毛沢東主席、1980年代の中国に最高実力者として君臨した鄧小平氏という、中国では既に伝説と化した2人の指導者の顔写真と習主席の顔写真を並べ、「毛主席は中国人を立ち上がらせた。鄧主席は中国人を豊かにした。そして習主席は中国人を強くした」とし、「習主席を支持するために、この文書を拡散希望!『中国の夢』実現に力を提供しよう」として終わっている。ちなみに、この文書では鄧小平氏にも主席を付けているが、鄧氏は軍を除けば共産党のトップの役職に就いたことは一度もない。

 さて、1項目目の「民政への支出を増やす一方、行政経費を抑える」というのは、50%と20%という無理目の数字を除けば、内容自体は至極当然のことで、習氏が行財政改革に本腰を入れるということだなと思い込んでもおかしくない。

言論を自由化?

 ところが、2項目目の「医療と教育の完全無償化」で途端に怪しくなる。中国にも国保や社保に相当する医療保険はあるが、戸籍地以外の土地で診療を受けると保険が利かず全額自己負担になる等問題が多い。農村に戸籍のある農民工は、出稼ぎ先の都市で病院にかかると高額な医療費を負担しなければならない。その逆、つまり都市に戸籍のある人が農村で就業するということは中国ではほとんどないことで、これも農村と都会の格差の1つになっている。それが、いきなり医療の完全無償化などすぐに実現すると思う方がおかしいということになる。

 このように、おしなべて不平等の是正や腐敗の根絶を説くこれら22項目の新政策は、実現すれば庶民、とりわけ不平等や格差で割を食っている農民工や、都市部の貧困層など弱者は大喝采で迎えるだろうが、中国の現状を見て少し冷静に考えれば、少なくとも数年内に実現するのは無理だということが一目瞭然なものばかりだということが分かる。

 極めつけは、9項目目の「文工団の性質を持つあらゆる機構を廃止する」と、20項目目の「言論、人民の自由、個人メディア、自由な発言を認める」である。このうち言論の自由については、例えば中国当局は「金盾(グレートファイヤーウォール)」という情報検閲システムを敷いて海外とのアクセスを制限しているから、ツイッター、フェイスブック、ユーチューブ等、海外のメディアに中国国内からアクセスすることができないし、さらにその規制を強化しようとしている。

 監視は、中国当局が認めている国産のSNSにも及んでいて、私の知人の知り合いが、中国当局を批判する内容を頻繁につぶやいていたところ、近所の派出所から警察がやってきて「批判は控えなさい」と警告されたという話も聞いた。このように、ネットの規制だけをとっても、新政策で習氏が、言論の自由、報道の自由を認めるというのは、冗談にすら思えない程度の話である。

「習夫人の権力基盤を解体」のあり得なさ

 そして、言論の自由を認める以上にあり得ないのが、「文工団の廃止」だ。文工団の正式名称は「文芸工作団」といい、軍に所属する慰問団で、歌や踊り、芝居で前線の兵士を鼓舞したり、軍の宣伝活動を行ったりする組織である。そして、今回のトランプ訪中でも「中国のファーストレディー」としてトランプ氏とメラニア夫人をもてなした習近平夫人の彭麗媛氏は、この文工団に所属するスター歌手だった人で、人民解放軍総政治部歌舞団の団長を経て、現在は文工団の元締めとも言える中国人民解放軍芸術学院の院長を務めているのだ。中国では、所属する機関や企業を基盤に権力を固めていくのが常。夫人の権力基盤の源で軍ともつながる文工団を、習氏自らが消滅させることなどまず考えられない。

 こうして見てくると、この22項目の新政策は、「習主席を支持しよう」と繰り返し主張してはいるものの、どうやら習氏やその周囲が決めた内容を自らリークしたというのではなく、習氏と対立する勢力が、習氏に打撃を与えるために流したという可能性もあるのではないか、とも思えてくる。

 例えば、「文工団」を廃止して人員を全員解雇するというのは、「公のカネを使って文工団のような組織を養うな」ということであり、言い換えれば、文工団の象徴とも言える習夫人の彭麗媛氏を痛烈に批判するものなのだから。

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