そしてこのこだわりのなさは、中国人の仕事観を如実に示すものでもある。
仕事に対するこだわりと躊躇のなさ
生きていく上での糧となるお金を稼ぐことを目的に仕事をするというのは日本人も中国人も同じだ。しかし日本人は、お金を稼ぐ過程、つまり仕事の内容にこだわる気質がある。先の例を引くなら、「儲かるからと言って、食肉処理場だったところで結婚式のビジネスをするなんて」と内容にこだわり躊躇するのが日本人だ。これに対して中国人は、お金を稼ぐという最終的な目的さえ達成できるならば、手段や過程にはこだわらないところが間違いなく強い。日本人が「この道一筋」や「トップが現場に立って」というようなことに仕事の価値を見いだしたり大切に思ったりし、自分自身が動かないと仕事をした気にならないようなところがあるのに比べ、中国人は、お金を得るという目的が達成できるのであれば、自分が手を動かさずとも他人にやらせても構わないし、それだって自分が仕事をしたことだととらえる。日本人の言う仕事は「労働」に近く、中国人の言う仕事は「投資」や「投機」に近いとも言えるのかもしれない。
エンジェル投資家の段階で終わるビジネス
30年来の付き合いになる中国人の友人がいる。彼は10年前、脱サラして上海で起業した。以来、彼とは2~3年に1度のペースで会うのだが、会う度に仕事が変わっている。そして、仕事は違うのだが、言うことは毎回同じだ。「前の仕事? あれはもう時代遅れだ。今はね……」とひとしきり新しい事業の内容について熱弁した上で、「立ち上げから助走段階のシリーズAラウンド、シリーズBラウンドの出資の段階はもう終わってね、いまはエンジェル投資家に出てきてもらうステージに上がるところなんだ」。そして、開発したばかりだというスマートフォンのアプリなどを見せてくれる。
彼はいつもその時手がけている新しい事業を、「これは画期的で革新的なことなんですよ」といって説明してくれる。しかし残念ながら、私には彼のどの事業も、どこが画期的で、革新的なのかが分かったことがないし、成功しそうにもまるで思えない。思えないどころか、目新しいことがまるでないのにも関わらず革新的だ、画期的だと力説されるとかえって不安が増す。
一方で、私は自分に事業やお金儲けのセンスがゼロだということについては自覚しているので、私が理解できないだけなのかな、と毎回あやふやな気分で彼のオフィスを後にする。ただ、彼のビジネスがどれも実を結ばず途中で終わってしまっているという結果を見る限り、どれも成功しそうにないなという私の見立ては、それほど見当違いでもないのだろう。そして恐らく、彼のビジネスに投資してみようという感覚を持ち合わせている日本人はいないのではないかと思う。
お金が集まる不思議
ただ、彼の起業遍歴を見て、気付いたこともある。彼のビジネスはどれも成功には至っていないものの、シリーズAラウンド、シリーズBラウンドまでは毎回、中国人の個人投資家からお金が集まっている、という点だ。事実、彼は上海都心部にある「創業パーク」に大きなオフィスを借り、いつ会っても10人を超すスタッフを抱えている。お金持ちにも見えない半面、ある程度の資金がなければ維持できない陣容で、投資家からの出資が実際にあることを裏付ける。どのビジネスも次のステージに進むためのエンジェル投資家を見つけることができず、自力でそこから事業を軌道に乗せることもできずに終わってしまうのだが、その前の段階までお金を出す中国人の投資家が少なからずいるということには、毎回驚かされる。
先日中国で、交通渋滞の解消につながる大発明だともてはやされた道路2車線をまたぐ巨大バスが、実は詐欺だったというニュースがあった。乗客が一度に300人運べる他、バスの底が巨大な空洞になっているのでクルマ2台が併走できるため、PM2.5など深刻な大気汚染の元凶の1つになっている交通渋滞の緩和に絶大な効果が期待できると売り込み、実際に試作品まで造って出資を募っていた。ところが実際は実用化の見込みがほとんどない詐欺で、実際に少なくない高齢者から資金をだまし取っており、経営者夫婦は逃亡したなどと報じられ、大騒ぎになった。先に紹介した友人のビジネスと違ってこちらは詐欺だから同列には論じられないが、試作品まで造ったところで、エンジェル投資家を見つける前に詐欺が発覚してしまった、というところである。
試作品のお披露目の様子を写真で見た。バスの下をクルマが通行している様はまるでマンガのようで思わず笑ってしまったが、同時に、こんなマンガみたいなことに投資した人が少なからずいたというのを聞いて、仕事に過程を求めない中国人の投資家、投機家としての気質がうずいたのであろうとも思ったのである。
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