このSNH48専用劇場の近辺には租界時代の建築がいくつか残されており、リノベーションしたこれらの建築を柱にした再開発が進んでいる。その中には、古い工場や倉庫に少し手を入れて細かく間仕切りしてペンキを塗りたくり、「創意産業園」「革新中心」、すなわち「クリエイティブパーク」「イノベーションセンター」などの看板を付けて貸し出すという、中国でこの10年ぐらい流行りの安易でありがちなものもある。しかし、歴史的遺産を残して有効活用するのが素晴らしいことであるのは間違いない。ただそれでも、「おいおい、再利用すれば何でもいいってわけじゃないぜ」と、首をかしげたくなるようなものもある。
首をかしげたくなるリノベーション

例えば、SNH48専用劇場の近くにある「1933老場坊」という建物がそうだ。ここは、共同租界の行政機関だった工部局が出資して1933年に建てた建築を、リノベーションして2007年、主にアートスペースとして再利用し始めたのだが、80数年前の竣工当時の名前はというと「上海工部局宰牲場」。つまり、牛の食肉処理場として建てられたのである。その後も食肉加工や製薬の工場として2002年まで使われていた。
虹口区のホームページが「建築美学と工業デザインを見事に融合した設計」と称賛するように、建物自体は個性的で見事な建築だ。ただ、中に入ると、数多の牛が食肉処理されるために引かれていったのであろうスロープが当時のまま残され通路として「有効活用」されているなど、あまりいい気分のものではない。鳥インフルエンザやSARSなど、動物由来のウィルスによる感染症が多くなっている昨今、上海の中心部の1つにそのまま動物を扱う施設を残すのも難しいのは分かる。しかし、アートスペースとして使い、おしゃれなアートエリアとして一般開放する発想に私はなじめず、足が遠のいていた。
食肉処理場で結婚式という発想の源泉

ただそれでも、食肉処理場だったという歴史や、そこに関わった人や動物たちの情念のようなものを受け止めた上で、アーティストやクリエイターたちが「創意」や「革新」を発揮して素晴らしい作品を創り出すということもあるのだろうとは思った。ところが先週、SNH48専用劇場に偶然行き当たったことでこの旧食肉処理場が近いことを思い出し立ち寄ってみて、「このこだわりのなさには、やはりついていけない」と唸らされた。
3~4年ぶりに訪れたこの旧食肉処理場ではこの日、結婚式が執り行われていた。このビルが経営する貸しスペースがウェディングプランを用意しているようなのである。新郎新婦を送迎するため正面玄関に停まっていたクラシカルなリムジンの前には、旧食肉処理場と、結婚の飾り付けをしたこのクルマをバックに記念撮影する人たちがひっきりなしにやって来る。
この貸しスペースは広さが1000平米で、最大500人まで収容できるとのこと。この広い空間がかつて、まさに牛たちを集める部屋だったのか、それとも作業する人間が事務所等として使っていたのかは知らない。いずれにせよ、「食肉処理場だった建物に広いスペースがある。じゃあ結婚式にも使えるな」としてお金を出し商売に結びつけたのだろうこの思考には、躊躇やこだわりというものが認められない。
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