「残業は一昨年から減り始めていたが、昨年末以降はゼロになった」(シャオチャン)。残業があった頃、ピーク時で額面4500元(6万7500円)前後あった月収は、残業ができなくなった今、3000元(4万5000円)を割り込むようになったという。

 そこに追い打ちをかけたのが、今年年初から上海の郊外を襲った賃貸住宅の家賃の急騰だ。インベンテックの工場には寮があるが、基本は8人1部屋。20代前半が中心の同僚との共同生活は辛いと、20代後半より上の社員は近くに部屋を借りて住むことが多い。シャオチャンも昨年まで、職場まで徒歩15分の場所に家賃500元(約7500円)の8畳ほどのワンルームでひとり暮らしをしていたが、今年の春節(旧正月)明けの契約更新で5割値上げを突きつけられ転居を余儀なくされた。

上海で最底辺の生活

シャオチャンがルームメートと借りている部屋。無味乾燥な鉄製の2段ベッドと雨漏りを防ぐブルーシートばかりが目立つ。30代の女性2人が住む部屋としてはあまりにも殺伐としている(上海浦江鎮)

 収入が減っているのを考慮して固定費をできるだけ抑えようと、友人とシェアすることにして探した結果、農家が自宅の敷地内に工員向けに建てたアパートで値段と広さが同じワンルームを見つけた。シャオチャンの払う家賃は250元(3750元)と半額になったが、工場までの距離は徒歩25分と10分遠くなった。もちろん専用のバスもトイレもキッチンもなく、計20戸に40人近くが住むアパートに水場兼用の共同トイレが2つあるのみ。私も1度、彼女の部屋を見せてもらったが、サビだらけの2段ベッドが置かれ、屋根の雨漏りをビニールシートで修繕し、そのシートの上をネズミが走り回っていた。客観的に見て、上海では最底辺に属する生活だ。

 「それに」とシャオチャンは続ける。「少し雨が降ると、台風でもないのに、アパートから大通りに出るまでの道にすぐ、くるぶしが隠れてしまうぐらいまで水がつくのが本当に憂鬱なんです」。今回、フォックスコンの工場勤務の女性が、電車にはねられて亡くなったのは、普段通勤に使っている地下道が浸水したためだというのを読んだ時、私の頭には、シャオチャンの住むアパート付近の絵が浮かんだ。そして、亡くなった女性とシャオチャンの像が重なった。

 「こんなに出費を切り詰めているのに、収入は下がるし物価は上がるしで、生活水準は落ちる一方。このまま収入が上がらなければ、上海で電子機器の工場に勤めて暮らすのはもう無理。だからといって、流れ作業の残業、特に夜勤の残業は本当に辛い。上海に住むのはもう限界なのかな」とシャオチャン。月曜から金曜までフルタイムで働いているというのに、彼女が確実に追い詰められているのが分かる。

 今回、フォックスコンの工場で自殺者が出たというニュースは、12人が連続で自死した2010年の時のような広がりを見せていない。ただ、中国の工場労働者を取り巻く環境は、厳しさを増している。