中国で中古家電を売るときに接する相手といえばこれまで、リヤカーの荷台で昼寝しながら町角で声がかかるのを待っている個人営業の廃品回収業者たちが主力だった。この廃品回収業者たちは、健康な体とリヤカーさえあれば贅沢はできなくても食べていくことはでき、子供を学校にやることもできた。しかし、ここ2~3年、再処理の過程で環境を汚すとして、回収の主力だったペットボトルと古紙の価格が暴落したことで稼ぎが少なくなった彼らは、中古家電の買い取りに力を入れることで凌いでいた。

 その中古家電の売買にスマホが必須になり、世界銀行の名前まで登場してきたいま、個人の廃品回収業者にとってはますます生き辛い世の中になってきたことになる。人型ロボット、生産自動化、人工知能(AI)が急速に台頭するいま、人手が介在している愛回収の製品の最終の査定、受け渡し、現金の授受も、遅かれ早かれロボットのみで完結するようになることだろう。「スマホでできる仕事」「ロボットでできる仕事」の雇用が減少するという時代の潮流に、中国のリヤカーを引く廃品回収業者たちも直面している。

 一方で、ロボットの実用化で仕事を失う中国人になんとか雇用を創り出そうと奮闘している、日本人にもなじみのある人物がいることを紹介したい。シャープ買収を決めた台湾鴻海(ホンハイ)精密工業のトップ郭台銘(テリー・ゴウ)会長だ。

リストラ断行とは異なる顔

 郭会長といえば近年、雇用を生み出すよりもむしろ、リストラを断行する人物というイメージの方が強い。主力の生産拠点を置く中国では一時、120万人もの工員を抱え、中国の雇用に大きく貢献した。しかし、高騰し続ける人件費や、きつい仕事を避ける若者の製造業離れを受け、「ロボット100万台導入計画」をぶち上げ生産の自動化を推進。台湾紙「工商時報」(2015年7月4日付)によると、導入ペースは年1万台に過ぎず、目標は大きく下回っているものの、それでも今年5月末には中国メディアが、同社の江蘇省昆山工場ではロボットの導入により2013年の11万人から直近で5万人にまで人を減らしたと報じている。

 また、シャープとの買収交渉の段階で「雇用は守る」と言いながら、いざ買収が決まると、「やはりリストラは不可欠」だと前言を撤回したと言われる。「日経ビジネス」は2016年7月4日号で、鴻海が既にシャープの海外法人でリストラを断行しているほか、追加で7000人規模のリストラを検討中だと伝えている。

 このうち昆山工場の事例を伝えた内外のメディアは、人を6万人削減したことに重点を置くものが多かった。鴻海が自動化を推進しているのは紛れもない事実だ。ただ、鴻海の子会社で液晶パネルの台湾イノラックスの王志超会長が工商時報(7月10日付)のインタビューで、「当社が自動化を進めるのは、中国工場で従業員が全員入れ替わってしまうほど人の定着が悪いことも理由の1つ」と語っているように、中国の製造業では、企業が従業員を切ると言うよりも、補充しなければ自然に減ってしまうという部分が大きいということを指摘しておきたい。

 さらに郭氏は、ロボット100万台導入計画を打ち出した当時から、ロボットに職を奪われる形になる出稼ぎの工員に、「故郷に帰り、家族の近くで暮らしながら家電店を開き、『町のでんき屋さん』として鴻海が生産した商品を売って生計を立てろ」と勧め、1万店の開店を目指して3億元(約45億円)の資金を準備して工員らの創業を支援した。ただ実際には、経営が素人の元工員らが電気店の経営に苦戦したほか、鴻海から電気店への商品供給もうまくいかなかったことから、実際に開店したのは280店と1万店の目標を大きく下回った。

 私はシャープが臨時取締役会を開き、鴻海の出資受け入れを決めた今年2月末、このコラムで「シャープ買収の鴻海、狙いは有機EL・インド・EV 失敗・とん挫の事業も死屍累々」と題した文を書いたが、その中で、郭氏の「町のでんき屋さん」計画について、「実際に実行に移したものの、経営が素人でどこもうまくいかず、そのうち自然消滅してしまった」として、郭会長がぶち上げはしたものの尻すぼみ、とん挫、停滞した少なくない事業のうちの1つだったとして揶揄した。

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