ところが先月のこと。中国の大手Q&Aサイト「知乎」で、ストレスに関するある回答が話題を集めたのを見て、私は再び、中国人のストレス感を考えさせられることになった。

一人っ子世代が興味を持つ金正恩

 質問は、「金正恩は、世界で最も成功した80後か?」というもの。「80後」とは、1980年以降に生まれた中国人のことを指す。2年前の2015年に事実上撤廃されるまで、中国では1979年から37年間にわたって一組の夫婦の子供を1人に制限する「一人っ子政策」が実施されていた。同政策施行後に生まれた中国人のことを、それ以前の世代と区別して「80後」と呼ぶ。

 一人っ子世代の子供を抱える家庭の問題に「421家庭問題」と呼ばれるものがある。一人っ子政策が始まったばかりのころは、家族の愛を文字通り一身に受けることから、一人っ子たちは祖父母と親の分を合わせて「6つの財布を持つ」と言われたものだ。ところが、21世紀に入って一人っ子世代の親や祖父母の高齢化問題が顕在化してくると、今度は、一人っ子は「2人の親」と「4人の祖父母」の老後を「1人で支え」なければならないと言われるようになる。一人っ子政策が廃止になったのも、若年層を増やさなければ早晩、高齢化問題で中国が破たんするとの危機感からのこと。421家庭問題は、それ以前の世代が抱えたことのない、80後特有のストレスだと言われる。

 話を戻そう。「金正恩は、世界で最も成功した80後か?」という質問がQ&Aサイトに立った5月は、北朝鮮が毎週のようにミサイル発射実験をしていた。表面上、北朝鮮最大の友好国である中国でも北朝鮮情勢についての関心は当然高い。このQ&Aサイトでも、「朝鮮」が独立した質問のカテゴリーとして設けられていて、「仮に朝鮮半島統一なら、日本を凌ぐ存在になるか」「北朝鮮の生活はどんな感じ?」「北朝鮮が軍事パレードで披露した新型武器をどのように評価するか」等々、無数の質問が並んでいる。金正恩・朝鮮労働党委員長が80年代生まれだということがなぜ話題になるのかは、外国人にはなかなか分かりづらいが、「一人っ子政策前・後」で社会が大きく変わった中国人にとって、1984年生まれで今年33歳の金正恩氏を「80後」という切り口で見るのは興味深いことなのだろう。

 「成功」という、見る角度や価値観によって様々に評価でき、これという正解も出ないだろうキーワードを設問に立てたのだから、回答にも当然、様々な意見が並んだ。ある意味、陳腐な質問で、普通であれば、数多の質問の中に埋もれて消えてしまってもおかしくない類のものだったはずだ。

 ところが、ある回答が、この質問に輝きを与え命を吹き込んだ。この回答を機にこの質問は注目され転送が繰り返され拡散した。私がこの質問の存在を知ったのも、Q&Aサイトそのものではなく、SNSで何人かの友人が拡散しているのを目にしたことからだった。それも、友人らが拡散していたのは、「金正恩は、世界で最も成功した80後か?」という質問そのものではなく、「最も人気のある回答」の方だったのだ。

 それは、金正恩氏のストレスを切り口にした回答だった。