5人中2人が中学中退

中学中退で一念発起し自動車部品工場で高給取りの技術者になったウーガオ(本人提供)

 祖母と妹とこの村に住み小学校に通っていたウーガオは、チュンリー同様、中学を2年で中退した。しかし理由は異なる。チュンリーは学費が払えなかったが、ウーガオは、「両親が出稼ぎをしていたから学費は問題なかったと思う。ただ、勉強が本当に分からなくて、辛くて辛くてどうしようもなくなってしまったんだ」。もうこれから一生、働くしかないと自分では決意を固めていたが、心配した親の勧めで、製造業の専門学校に通うことにした。そこで旋盤や金型で正確なモノを作ることの面白さを覚えた。「パソコンでやる金型設計の基礎も面白かった。専門学校に通って初めて、面白い勉強ってのもあるんだな、と思った」。

 どういうシステムでそういうことが可能なのか何度話を聞いてもよく分からないのだが、このウーガオがこの専門学校を選んだ理由の1つに、修了すると中卒の資格が同時に付いてくるから、というのがあったのだという。無事、中卒の資格を取ったウーガオは、16歳で専門学校から紹介された上海にある自動車部品製造工場に就職した。今年21歳だが社歴は既に5年で後輩もいる。仕事ぶりを評価され、月給は今年から1万元(約16万円)に上がった。中国の製造業では、きちんとした技術を身につけた人材でなければ手にできない金額だ。

 そして、あの村の子供たちと連絡を取りたいと思うきっかけを作ってくれたチュンリーは、中国の最南端の島、海南島にいた。中学を2年で中退した後、遠い親戚が海南島の海口で営む中国絵画と書画の画廊に就職したのだ。画廊に併設する作業場で、10人の仲間と共に、主に装丁の仕事をしている。「オフィスやホテルの装飾用の需要で、仕事はひっきりなしに入ってくる。朝8時から夜9時頃まで、働きづめだよ」とチェンリーは言う。

「ボクのことを覚えていてくれて、ありがとう」

 就職した時、彼は16歳。1人でバス、列車、フェリーを乗り継いで海南島の就職先にたどり着いたのは、実家を出てから3日目だったという。ワンレイが作ってくれたグループチャットで8年ぶりに再開を果たした日、チュンリーは、「中学を辞めて1人で海南島に働きに来て7年。寂しい時もあったよ。そんな時に不思議と、『約束したから』と言っておじさんが2度目に訪ねてきてくれた日の自分の気持ちを思い出すんだ。そして今日も、あの日と同じ気持ちがするんだよ」と言った。それは、どんな気持ちなのかな、と尋ねる私。彼は、「なんて言えばいいのか分からないよ。でも、でも……ボクのことを覚えていてくれて、ありがとう」と言った。

 留守児童の問題には、都会と田舎の不公平と格差、出稼ぎに行ったまま戻らない親たちの育児放棄など、中国が抱える社会問題が存在する。そして、大人の庇護無く田舎に残されて暮らす留守児童たちが、性犯罪に巻き込まれたり、生活苦や孤独を苦に自殺したりという痛ましい事件も起こっている。メディアが留守児童の問題を取りあげるのは、たいてい、こうしたスキャンダラスな事件が起こった時のみだ。

 ただ、子供と離れて暮らす辛さに耐えながら懸命に働き、ギリギリの家計の中から学費を捻出して子供に尽くそうとする親たち、そして、親を見ながら自分の人生を選択し、たくましく生きる留守児童たちがいることを、チュンリー、ウーガオ、チェンシー、ワンレイやその親たちは教えてくれる。そして、「ボクのことを覚えていてくれて、ありがとう」と言ってくれたチュンリーは、自分のことを誰かが気にかけてくれているということが時に大きな力になるのだと言うことを、気付かせてくれる。言い換えれば、留守児童に思いを馳せるだけでも何かの力にはなるということであり、一方で、留守児童の問題を、事件やスキャンダルとして消費するだけで終わらせてはならない、とも思う。

 今年の2月、私は少年たちの村に4度目の訪問を果たし、春節で帰省していたチェンシー、ワンレイ、ウーポンの3人と再会した。春節明けには、上海で働くウーガオが、同じ上海にある私の自宅近くに会いに来てくれた。残りはチュンリーだ。そして先週、私は海南島に飛んだ。

 空港に迎えに来てくれたチュンリーは、「おじさん、ボクのことを覚えていてくれて、ありがとう」。また私にそう言った。

中学を2年で辞めたチュンリーは、海南島で書画の装丁の仕事をして7年。今は必死にハイランとの結婚のための結納金を貯めている

 チュンリーには、2年前から同棲しているパートナーがいる。3つ年上の海南島の女性、ハイランだ。 今年の秋、チュンリーはハイランを実家に連れて行き、婚約するつもりだ。田舎に帰る時には上海に寄ってよ、来週、ディズニーランドもオープンすることだしと誘うと、チュンリーは、「ディズニーランドか、いいねえ」と言ったが、すぐに「でも、ムダなお金は使えないな。彼女の家に贈る結納金を貯めなきゃならないんだ」と言った。それはいくらなのと尋ねると、「一般的には6万6000元(約105万円)だね」とチュンリー。すると横でそれを聞いていた彼女のハイランが、「足りなくても大丈夫。あなたの気持ちは伝わるわ」とチュンリーの横顔を嬉しそうに眺めながら言う。

 節約しなきゃと言いながら、チュンリーは、私の滞在中の宿泊代、食事代、お茶代をすべて払ってくれた。結婚資金を貯めなきゃいけないんだろう、気持ちだけで十分だからと何度も言ったが、「海南島まで会いに来てくれたおじさんに出させるわけには絶対にいかないんだ」と言って、チュンリーは頑として受け取ろうとしない。「そうそう、絶対にダメよ、おじさん」と言って、横でハイランが笑っていた。