日本ではこれまでほとんど伝えられていないそのニックネームとは、「ローコスト・テリーの最も有力な執行者」というもの。

 いささか古い資料になるが、台湾誌「今周刊」(2005年3月10日号)によると、「ローコスト・テリー」の「テリー」とは、郭会長の英語名のこと。コストカットを武器に鴻海を台湾有数の大企業に育て上げたとして注目を集め始めた郭氏に、台湾のメディアや民衆は畏敬の念を込めて「ローコスト・テリー」というあだ名付けた。そして戴氏は、郭会長が理想とするコストカットを、彼の部下の中で最も理解し、忠実にそして厳格に実施に移す能力を備えた人物だとして、「ローコスト・テリーの最も有力な執行者」と呼ばれるようになった。

 戴氏をよく知るあるアナリストは、戴氏の仕事の手法を「日本から学んだスタイルだ」と評する。日本から学んだスタイルとは、「働きバチ」と称されたハードワークのことを指す。

 1974年、数人の友人等と共同で、台北に白黒テレビのチャンネルのつまみを作るプラスチック成型の工場を始め製造業の世界に入った郭会長も、「町工場から脱皮するには、優れた金型が無ければ無理だ」と思い至り、日本の金型技術を学び設備を導入したことでその後の飛躍につなげたことが知られているが、今でも長いときには1日16時間働くというハードワークも、もとは高度成長時代の日本から学んだものだと指摘する向きがある。

 すなわち郭氏、戴氏とも、日本から学んだハードワークをその後の成功体験につなげていることになる。

台湾経由で学ぶ日本の高度成長の成功体験

 まだシャープ買収の交渉中だった今年の2月初め、郭会長が、雇用を守るのを明言したのは40歳以下の社員だけだという話が伝わっていたこと、体力が徐々に衰え始める40歳以上では、鴻海のハードワークについていけないのではないかということについては、シャープが2月末に鴻海の買収提案の受け入れを決めた直後に書いたコラムで触れた。

 日本の40代以下と言えば、バブルが崩壊後の就職氷河期を経て社会に出たいわゆるロスジェネ世代で、高度成長時代の日本のことを実体験として全く知らない一群だ。シャープでは今後、働きバチと揶揄されながら懸命に働いて高度成長を実現した日本から学び、いまではその日本人も一目置くハードワークに、徹底したコストカットを加えて1代で世界に冠たる巨大企業を築き上げた台湾人の郭氏と戴氏から、成功体験を学び、シャープの経営再建に取り組むことになる。