戴氏の卒業した大同大学の校友会が発行している資料で「傑出した校友」として戴氏を取り上げているのだが、その中で、戴氏が鴻海に入社した経緯について、「友人知人の紹介という縁故入社ではない。新聞の求人広告を見て履歴書を送るという最も正統派の手段で入社を果たした」というエピソードを紹介している。ただ、当時の鴻海は、縁故を使わなければ入社できないような大企業ではなかった。

プレステ2の受注で功績

 以後、今日まで31年間、郭氏に近いところで仕事をする中で、戴氏は郭氏の性格を裏の裏まで知り尽くすほどの側近中の側近になる。工商時報は、年額500億新台湾ドル(約1700億円)の予算を握るSMT技術委員会と呼ばれる設備購買部門の責任者を長年、戴氏が務めていることを取りあげ、それだけ郭氏の信頼が厚いことを示すものだと指摘している。

 戴氏は2005年、「競争製品」という名前の事業部のトップから、鴻海の副総裁に抜擢された。この人事について台湾市場では当時、「容易に部下を昇進させない郭会長にしては異例の人事で、それだけ戴氏に対する信頼が厚いことを示すものだ」との評価が聞かれたようだ。

 郭会長が戴氏に対する評価を高めた大きな理由として台湾メディアが指摘するのは、ソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション2」の製造受注に功績があったというもの。ソニーが発注先を最終決定する1日前の時点で、競合の見積価格をつかみ、鴻海が負けていることを知った戴氏は、新たな見積もりを部下に託し最終便で日本に向かわせる。翌朝、ソニー側の担当者が出社するところを待ち構えていた鴻海の社員が見積もりを手渡し、残り時間1時間で逆転し受注を勝ち取った。この一件で郭氏は、戴氏の情報収集能力の高さや決断のスピードに対する評価を決定的なものにしたという。

 プレイステーション2の受注をきっかけに日本企業との関係を深めた戴氏は、日本通としての評価もより確固たるものにした。台湾の経済紙「工商時報」は2016年
3月8日付で、シャープの次期トップとして戴氏が下馬評で最有力になっているとした上で、「日本に通じ、郭氏の信頼も厚く、鴻海を知り尽くし、同社ではコンシューマー向け電子製品部門の幹部として事業の面でも申し分のない実績を上げてきた戴氏が、鴻海の企業文化の伝承者として最適な人選だというのが台湾での一致した評価だ」と報じている。

「コストカッター」としての顔

 ただ、郭会長が戴氏を評価したのは、仕事の速さや情報収集能力の高さ、日本通の側面だけではない。それは、「日本先生」「鴻海の徳川家康」と並ぶ、戴氏のもう1つのニックネームから知ることができる。