暴走ママチャリと自転車シェア

 電車内の乗降を巡る対応では違いが際立つ日本と中国。一方で、今回の1カ月の日本滞在では、中国と日本が似てきたなと感じることもあった。それは、自転車の暴走具合である。

 1990年代頃まで、自転車の大群が町を走る様は、中国の町の風物詩ともいえる風景だった。ただ、数自体は確かに多かったが、自転車の側を歩いていても、怖さや圧迫感を感じることはなかった。それはなぜなのかと観察していて、中国人が妙に自転車をフラフラさせながら乗っていることに気付いた。前後左右、どこから人や自転車、クルマが飛んできても対応できるよう、真っ直ぐではなく、わざとクネクネさせながら若干蛇行して走っていたのだ。例えていうなら、昭和40年代、50年代生まれの日本の男たちにとっての不朽の名作「あしたのジョー」で、もやしのようにひょろひょろの青山くんが、体をクネクネさせる「コンニャク戦法」で矢吹ジョーのパンチの威力を軽減させたのと同じだと言えば、中国人の自転車を乗る様を見たことのない日本の読者でもイメージが湧くだろうか。おびただしい数の自転車、人で溢れる中国の町で、身を守るために身に着けた乗り方だったのだと思う。

 ところが近年、電動バイクが主流になり人力の自転車が減ったことで、このクネクネ走法が影を潜めてしまった。なにしろ、電動は簡単にスピードが出てしまうから、ゆっくり走るのが苦手で、クネクネするのも技術的物理的に難しい。さらにここ1~2年は、電動バイクを使った宅配便と出前サービスが急増した。彼らの給料は歩合制で時間との勝負だから、むやみやたらに飛ばす。こうしてクネクネ自転車でのどかだった中国の町は、歩道を通行人の体すれすれに通り過ぎるママチャリが暴走する日本の町同様、音もなく高速で近づいてきてひやりとさせられる電動バイクだらけの危険な町に変わってしまったのだ。

 そんな中国の都会の町に昨年来、変化が起きた。自転車シェアリングの勃興による自転車の復権である。

 中国自転車協会の統計によると、中国では上海、北京、広東省広州、深セン等、既に全国30あまりの都市で自転車シェアリングを導入。台数は全国で200万台に上り、うち上海は45万台で、1都市の規模としては世界最大。参入企業は15~20社ある。うち大手はMobike(摩拝単車)とofo(共享単車)の2社。いずれもスタートアップだが、うちMobikeの自転車製造に鴻海(ホンハイ)精密工業の生産子会社である富士康科技(フォックスコン)が名乗りを上げ、もう一方のofoにはアップルのティム・クック最高経営責任者が視察に訪れ出資の観測が出るなど、注目が中国から世界に広がってきた感もある。

 中国の自転車シェアリングは、深刻な大気汚染の解決策の一環として台頭してきたわけだが、あまりの急速な増殖ぶりに、儲かるとなったらカネがワッとそこに集中して過剰投資になるということを繰り返してきた中国人の特徴がここにも現れただけだと、冷ややかに見る向きもある。いずれにせよ、自転車シェアリングが定着して、中国の町にクネクネ走法が復活し、再び安心して町を歩けるようになり、おまけに青空まで戻ってくれれば最高なのだが。

急速に増殖する自転車シェアリング。色の違いはサービス会社の違い
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