機能を絞っているため構造が単純だからということもあるのだろうが、故障が少ないのも美的の家電の特徴だと私は思っている。扇風機は去年買ったものだが、電磁調理器も炊飯器も10年使って故障は一度もしていないし、経年劣化もない。
優秀だが買っても高揚感のないブランド
ただ、ここで1つ言えることがある。それは、美的の製品で、中価格帯や高価格帯のモノを買いたいと思ったことは一度もないということだ。例えば電子レンジであれば、美的は3000元(5万4000元)のオーブンレンジや、上は5000元(約9万円)というスチームオーブンレンジまで、幅広い価格帯で製品を揃えている。しかし、超低価格の製品ではそのコストパフォーマンスと頑丈さに感心し高い評価を与えるものの、では、「美的の1ランク上の炊飯器を買ってみようか」「美的の2ランク高い電子レンジを使ってみようか」とは思わないということである。1ランク2ランク高いグレードや、ましてや5000元などという高価なモノを買うとなれば、同じ価格帯にある米国の家電メーカー、ワールプールやパナソニックのモノを選びたくなる。
それは中国人も同じようで、賃貸住宅でも家賃が高くなればなるほど、備え付けの家電に占める美的の比率は下がっていく。つまり美的は、「安くて頑丈で人気もあるが、買ったりもらったりしても、高揚感を感じるようなブランドではない」ということになるだろうか。
美的は昨年8月、安川電機と提携して製造業の自動化を推進する産業ロボットや介護などのサービスロボットの分野への進出を決めた。また、スマートフォンで近年急台頭している中国シャオミ(小米科技)から2014年末、12億元(約216億円)の出資受け入れを決めたほか、シャオミのスマートバンドと連動して睡眠中の運転をコントロールできるエアコンを開発。インダストリー4.0やIoT(モノのインターネット)を駆使したスマートホーム、スマート製造業など、先端分野や技術への進出を積極的に図っている。
サザエさん時代のブランド力は残っているのか
ただ一方で、東芝の白物家電事業を買収する背景には、東芝の技術以外に、東芝というブランドの力を借りて自身に足りないものを補い、家電市場でもさらに進化したいという意図が透けて見える。
東芝1社提供で日曜夕方から放映していたサザエさんで育った世代の私にとって、サザエさんの家にある家電はすべて東芝製というイメージがあるため、東芝は家電メーカーなんだと違和感なく思い込んできたところがある。ただ、東芝のことを書くにあたっていま、東芝を代表する家電は何かと考えてみると、これと言ったものが浮かばないという現実に突き当たる。ノートパソコンでは一時期、北米を中心に存在感を示し、ウィキペディアによると1994年から2000年まで世界シェアが7年連続で1位だったとのことだが、それも今は昔。2015年のパソコン世界シェアでは上位6社から漏れるなど見る影もない(ガートナー調べ)。それが東芝の家電やIT製品の現状である。
東芝を買収することで、美的は果たして「買うことで高揚感を覚えるようなブランド」になれるだろうか。そして東芝の側には、美的を「買って高揚感を覚えるようなブランド」に変貌させるだけの力が残っているのだろうか。
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