今回、私も電子レンジが壊れたと大家に連絡すると、「お金はあとで払うから適当なのを買え」という指示。もちろん適当なのと言っても高いものを買っていいということではない。ここで言う適当なの、とは、「機能は最低限で、売り場に並んでいる商品の中で最も安く、しかし知名度はあるメーカーで、容易には壊れない製品」という意味だ。

 この条件で探すと、白物家電の場合、美的と、格蘭仕集団というやはり中国企業が運営するブランド「Galanz」の二択になることが圧倒的に多い。実際、電子レンジを選びに上海市内のカルフールに足を運んでみると、「機能が最低限」なタイマーと温度調節がダイヤル式の商品は、美的と格蘭仕の2つのみ。そして私は、大家の顔を思い浮かべながら、値段が50元(約900円)安かった美的の電子レンジを購入した。

 電子レンジに限らず、安い家賃の部屋を貸し出すオーナーは、備え付けの家電に美的を選ぶことが多い。中国の家電メーカーとしてはハイアールなどと肩を並べるほどの有名ブランドであるにもかかわらず、製品ラインアップにとびきり安い価格帯の商品を揃えており、しかもあまり故障もしないからである。

筆者の自宅にある美的ブランドの扇風機と電子レンジ。必要最低限の機能であるならば、美的の製品は最強だ
筆者の自宅にある美的ブランドの扇風機と電子レンジ。必要最低限の機能であるならば、美的の製品は最強だ
[画像のクリックで拡大表示]

低価格帯で確立した実力とブランド力

 ブランドイメージを気にし始めた中国の家電メーカーの中には近年、機能を最低限に絞った最低価格帯の製品をラインアップから外すところが目立つ。ただ美的は、競合が避けるようになったこの価格帯に現在でもしっかりと製品を出し続けている。最低価格帯とは電子レンジであれば300元(5400円)、炊飯器であれば100元(1800円)といったところ。引っ越しの物件探しで家を見て歩くと、家賃が4000元(約7万2000万円)以下の賃貸住宅では、電子レンジ、炊飯器、電磁調理器といった調理家電で、美的の最低価格帯の商品を使っている家族が多いことに気付く。美的はこの価格帯で壊れない製品を造り実績を積み上げることで、ブランドイメージを確立してきた企業だと言える。美的自身もそのことをよく分かっているからこそ、自らを育ててくれた価格帯を今でも大切にしているのだろう。

 個人的な話をさらにすれば、上海の私の自宅もこのたび新調した電子レンジに加えて扇風機、電磁調理器、炊飯器と家の中は美的の製品だらけである。うち電子レンジ以外は自分で購入したものであり、どれも量販店の売り場に並んでいた中で最も安かったモデルだ。このうち100元(約1800円)で買った炊飯器は2台目の美的で、10年使った1台目も99元(現在のレートで約1800円)と、購入した13年前の当時でもとびきり安かった。

 ご飯は普通においしく炊けるしとても満足していたのだが、2年前に住んだ古いアパートで共同炊事場に置いておいたら盗まれてしまったのでやむなく新調したのだ。廃品回収をしている友人に聞くと、美的の炊飯器は中古でもすぐに売れてしまうのだと言っていたので、安いのにきちんと炊けると定評があるのだろう。

次ページ 優秀だが買っても高揚感のないブランド