中国では10年ほど前から電磁調理器が普及し、煮炊きにもこれを使う家庭が増えたが、それでも、費用が電気代よりも安くつくと言うことで、北京では練炭を使う人も少なくなかったと聞く。とりわけ、低所得者層が多く住む地区での使用率は高かったようだ。しかし、違法建築が密集して建つエリアで練炭を使うのは危険であり、なにより練炭は大気汚染の元凶の一つに数えられてもいた。そうした折、昨年11月初旬に低所得者居住地区の一つである北京郊外大興区の新建村の違法住宅で19人が死亡する火災が起きたのを機に、北京当局は新建村を皮切りに、北京に数カ所ある低所得者居住区で住民の強制立ち退きと取り壊しを相次いで実施した。

 この低所得者層の追い出しは、先のコラムでも書いた通り、高度成長の時代が過ぎ去り「新常態」という低成長――それでも中国政府は3月5日から始まった全国人民代表大会(全人代、国会)で、今年の成長目標を6.5%という、日本から見れば夢のような高い数字に設定したが――の時代に入り、北京が低所得層を抱えておく余裕がなくなったことが最大の理由だ。同じ現象は一足先に上海でも始まっている。ただ、北京の指導者たちの頭には、低所得層を一掃することで練炭を燃料に使う家庭が激減し、大気汚染の解決にもつながるから一石二鳥だとの考えが間違いなくあったはずだ。

 いくら違法建築だったとはいえ、住民を立ち退かせるための交渉には普通、長い年月を擁するものだが、中国の場合、当局が「やる気」になれば、極めて短期間で実現してしまう。先の北京新建村では火災からわずか2週間でほとんどの住民が追い出された。中国の若い研究者が、「常識」で考えて50年かかると思った大気汚染の解消が、4年という「常識外れ」のスピードである程度の結果を出したのは、2週間で住民を町ごと追い出してしまうという「常軌を逸した」当局の手法が大きく関係しているのである。

EV化の波が押し寄せている

北京ではEV等、クリーンエネルギーで走るバスが増えている
北京ではEV等、クリーンエネルギーで走るバスが増えている

 ただここで指摘しておかなければならないのは、中国で公共交通へのクリーンエネルギーの導入が常軌を逸したスピードで進んでいることが、大気汚染問題が常識外れのスピードで進んでいることに関係しているのだろうという点だ。

 中国国営新華社が2017年10月22日に伝えたところによると、北京では同日、天安門広場と故宮の間を走り、有事には滑走路にもなると言われる広大な目抜き通りとして日本のテレビでも度々目にする長安街を走る路線バスに初めて電気自動車(EV)車輌10台が導入された。新華社はさらに、昨年末までに北京市では路線バス4500台がEV化される予定であり、その時点で北京の路線バスの65%がEV等の新エネルギー車になると報じている。中国紙『経済参考報』も3月6日付で、北京市の路線バスの約6割、1万台強で新エネルギー車が導入されたと、新華社に近い数字を伝えている。

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