新しいネタは中国で起こる、それが世界の常識
ChinaStartup編集長・家田昇悟氏を迎えて(1)
今回は、とても若い方とお話しした。中国のスタートアップに特化した情報発信グループ「ChinaStartup」を運営する家田昇悟氏だ。家田氏は、現在26歳。学生の頃から中国に興味を持ち、IT関連を中心に常に中国の新しいものをウォッチしている。
家田氏をはじめとする若い方は、中国をどのように感じ、そして中国に何を期待しているのか。新鮮な気持ちでいろいろとお聞きした。
山田:これまで、いろいろな方と対談したのですが、家田さんのように、若い方は初めてです。今日は一から教えていただきたいことばかりです。家田さんと中国の関わりはどのように始まったのでしょう。
家田 昇悟1991年生まれ。大学休学中に中国の日本酒コンサルティング会社で、営業・ECサイトのリサーチを経験。大学復学後、中国のスタートアップに特化した情報発信グループ「
ChinaStartup」を立ち上げ、中国関連のリサーチやコンサルティングに従事する。参加者は2000人を超える。現在はインターネット企業にてマーケティングを担当。
家田:大学が同志社大学グローバルコミュニケーション学部の中国語学科でした。その在学時に上海の復旦大学に1年間留学しました。帰国してから、中国で働きたいなと思ったんですが、ビザの取得が難しかった。一方で、大きな企業に就職するとなかなかすぐ実戦で働けないと考え、それだったらインターンをしようと思って1年間日本の大学を休学。上海の日本酒のコンサルティング会社で1年間インターンをしました。
その1年間の最後の方に、お酒をネットで売ろうというプロジェクトがあり、そこで中国のインターネット事情とか、あるいは投資とかの情報を調べて面白いなと思ったんです。日本で情報が全然なかったもので。そこで自分のブログと「Twitter」と「Facebook」を使って、大学5年生のときから自ら情報発信を始めました。
山田:それから度々、中国に行かれているんですね。
中国発のものを日本に
家田:そうですね。新しいネタは中国で最初に起こっているというのが、インターネットのサービスという点では、今や世界の常識になっていると思います。ですから、それをまねて日本に持ってこようと思って中国に行っている感じです。
山田:ネットの世界だと、日本のものを中国に持っていこうじゃなくて、中国のものを日本に持ってこようという形なんですね。
家田:そうですね。
山田:具体的に今、中国で面白いサービスって、何でしょう。
家田:自転車のシェアリングサービスの「Mobike」とか「ofo」は体験して、これはいいサービスだと感じました。
山田:Mobikeは北海道を皮切りに日本にも来ていますね。それにヤフーやメルカリ、LINEもこのサービスへの参入を計画しています。
家田:そうですね。
この連載「中国生活「モノ」がたり~速写中国制造」が『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』として単行本になりました。各界の著名人からレビューをいただきました。
●私はこの例外的に「間合いの近い」取材方法を成り立たせるために著者が費やした時間と労力を多とする。長い時間をかけて、息づかいが感じられるほど取材対象の間近に迫るというスタイルは現代ジャーナリズムが失いかけているものである。
(哲学者 内田樹氏によるレビュー「感情の出費を節約する中国貧困層のリアリズム」より)
●「ブルース」という単語に何とも(やや古びた)哀愁があり、そしてカバーの写真の農民工の写真には、記念写真では決して撮れない、私自身が感情移入して泣いてしまいそうなリアリティがある。
(中国問題の研究家 遠藤誉氏によるレビュー「執念の定点観測で切り取った、中国農民工の心?」より)
●だが、最近の日本のソーシャルメディアでは、「親の時代はラッキーだった」、「親の世代より、子の世代のほうが悪くなる」といった悲観的な意見が目立つ。中国においても、農民工の楽観性や忍耐がそろそろ尽きようとしているようだ。
(米国在住のエッセイスト 渡辺由佳里氏によるレビュー「繁栄に取り残される中国の『ヒルビリー』とは?」より)
●同書で描かれるのは、時代と国家に翻弄される個人たちだ。歴史的背景や、共産党政権の独自性うんぬんといった衒学的な解説はさておき、目の前で苦悶している、もっと距離の近い苦痛の言葉だ。
(調達・購買コンサルタント/講演家 坂口孝則氏によるレビュー「年収3万の農民に未婚の母、中国貧民の向かう先」より)
山田:自転車シェアリングが中国であれだけ急速に爆発的に増殖したのは、スマホで自転車がある位置が一目瞭然だとか、電子決済に中国人は抵抗がないとかいくつか要因があると思いますが、最大の理由は、乗り捨てに抵抗がないということですよね。もともと中国には自転車置き場がたくさんあって、そこでは駐輪料金としてお金を徴収しているおじさんとかおばさんもいました。本当はそういったところにシェアリングの自転車も置かなきゃいけないんだろうけど、とにかく数が増え過ぎちゃった。だからどこでも乗り捨ててしまっている。邪魔だからということで社会問題になってはいるけれども、乗り捨て自体に抵抗はない。
ただ日本だと、こんなところに乗り捨てていいのかという習慣的なものがあると思うんです。このあたりは、日本で普及する際の壁になるとは思わないですか。
家田:そうですね。日本と中国では、社会のインフラというか前提が大きく違うので、いいサービスであっても、日本になじむように考える必要があると思います。
中国企業のマーケティング戦略は見習うべき
山田:中国のITビジネスといえばバイドゥ(Baidu=百度)、アリババ(Alibaba=阿里巴巴)、テンセント(Tencent=騰訊)の「BAT」といわれるIT大手3社を外して語ることはできないわけですが、純粋な民間企業というには、保護されすぎているという印象があります。形を変えた国営企業のように見えます。家田さんは、これら中国企業から学ぶべきこととして何があると思われますか?
家田:外国の企業に対して中国政府が規制を設けることで、彼らを育てた一面もあるとは思います。とはいえ彼らのマーケティング戦略は非常に優れたものだし参考にできると思います。もちろん国営企業みたいだという見方もできるとは思いますが、それだから成功したんじゃなくて、例えばアリババ創業者のジャック・マーの理念などは参考になります。
また政府とちゃんとうまくやっているということは、それですごいことだと思うんですよね。ジャック・マーは、クレジット払いサービスの「ホワベイ(花唄)」とかネットバンクとか、いわゆる貸し金ビジネスに参入していて、それらは基本的には既存のプレーヤーをつぶすビジネスと思われがちだけど、それでも中国政府と折り合いをつけてやっている。それはそれですごいと思います。
山田:だから、中国のサービスは参考になると。
家田:昔、タイムマシン経営とかあったじゃないですか。アメリカのサービスをタイムマシンで日本に持ち込んで、みたいなのが。もう今はアメリカじゃなくて中国を見ないといけないよね、みたいな感じですね。
山田:そもそもは何で中国に興味を持たれたんですか。
家田:最初はゲームの『三國無双』です。プレイステーションの。それで『三国志』は面白いなと思って、図書館に横山光輝さんの『三国志』の漫画があって全部読みました。もともと歴史とかそういうのが好きだったのもあって三国志にはまりました。そこから『三国志』や『三国志大戦』などのシュミレーション・ゲームをやるようになり、また小説とかも読むようになりました。というのが中学生ぐらいですね。
その後、大学のときに留学したいなと思ったんです。英語圏は高いから厳しいけど中国圏は安いからいいよ、みたいに親に言われたんです。英語圏だと年間の費用が住まいを含めると300万円ぐらい掛かるんですよね。中国圏だと100万円ぐらいで行けたので。
山田:そこから本格的に中国に携わっているのですね。今は、どのぐらいのペースで中国に行かれていますか。
家田:今は、2~3カ月に1回ぐらいです。住まないと分からないことも多いですが、アプリ自体は日本からも触われるものはいっぱいありますし、中国メディアの記事も日本から見ることはできるので。
山田:なるほど。それにしても、中国のものを参考にして日本に持ってこようという話を、人から聞いたのは初めてです。今までは日本から持っていって中国で流行らそうという流れだったと思うんです。
IT以外でも中国のもので、これは日本に持っていったらいいんじゃないかと思うものってありますか。
家田:生活していて思うのは、最近だとメイソウ(名創)ですね。
山田:メイソウですか。ダイソーのちょっとおしゃれ版じゃないんですか。
家田:メイソウは店舗開発が上手だと思うんです。今まで中国では、駅の近くでちょっとしゃれていて日常品が購入できるお店ってなかなか少なかったんです。メイソウは、急速に店舗を拡大している。ビジネスの目の付け所がいいと思います。
山田:日本ではユニクロとダイソーのぱくりみたいなことでメイソウは話題になりました。売れているし中国の人は買っているし、だからそれでいいじゃないかというのはどうも気になります。今まで日本などが一生懸命やってきて、著作権だとかアイデアだとかを大切にしてきた。そういうものに価値があるんだということでやってきたんですよね。
もちろん日本だってアメリカをまねてきた。ぱくりと言われないように一生懸命デザインを変えてきたりという部分はあります。メイソウの場合はロゴマークからして一番最初は本当にぱくりだと思うんです。その辺のところで、私はとても抵抗がありますし、評価する気になれません。
ただ一方で家田さんは、目の付け所は優れていると思われているわけですね。今度、私もそのあたりを気にして、メイソウに行ってみたいと思います。
ほかにも中国に根付いていて、日本に持っていったらよさそうなものって何かありますか。
家田:シャオミ(小米科技)のスマホは安くて質がいいという意味でいいと思います。中国では600元(約1万円)ぐらいで買えるじゃないですか。SNSを駆使したマーケティング、ユーザーからのフィードバックを開発体制に組み込んでコミュニティをうまく作ると言った手法は、優れているなという気はします。彼らはインドでもだいぶシェアを伸ばしていますよね。
山田:ほかにも何かないですかね。例えば何か困っている人にとってとても便利とか。
生活弱者がこれを使うと、画期的に助かりますみたいな発想のものが、中国には全然ないような気がするんですけど、どうですかね。
ライブ配信は成り上がる道
家田:それでいうとネットの生配信、ジーボー(直播)はスマホ1台あればお金を稼げるという意味では、あれは弱者を助けていると思います。
例えば、女の人が出てきてカラオケなどで歌って、多くの人に見てもらえれば、お金が入ってくるじゃないですか。個人が同じ時間を使ってもレバレッジが効いて稼げる場所という意味で、ライブ配信というのはいい仕組みだと思います。例えば、今までだったらコンビニでバイトして時給ベースで稼ぐというのが、もしライブの中でスターになれば、同じ時間で10倍以上の金を稼ぐことができるじゃないですか。しかも中国と日本では人口の差が圧倒的に違う。日本でライブ配信をやったら10人の人しか見ないけど中国だったら100人の人が見るみたいな状況。だからお金も稼ぎやすいと思うんですよね。
ライブ配信は見ていると、都心だけの人じゃなくて田舎の人も結構使っているので、成り上がる道がある。スマートフォン1台さえあればスターになれる。チャイニーズドリームとしてライブ配信は面白いんじゃないかなと思います。
山田:ライブ配信で人気があるものというのは、やっぱりエロ系ですよね。
家田:はい。ただ今はいろいろなジャンルがあって、食にめちゃくちゃ詳しい人とか。何でそんなにみんなが見ているか、私には分からなかったんですけど。それと、何ていうか分からないんですけど、自分で玉を置いて引っ張ってぴーっと飛ばすみたいなおもちゃ。
山田:ありますね、公園で遊んでいる人が。
家田:そうです。あれをやっている動画みたいなものがあって、それが数十万ぐらいフォロワーが付いている。そういういろいろなジャンルで、影響力のある人たち、インフルエンサーというのがいっぱいいる。歌がうまい人もいますし、マフラーを作るのが上手とか、ありとあらゆる分野でインフルエンサーというのが成立していて。それというのはある意味弱者を助けている。自分の特技なものがあればいい。
山田:それは「YouTube」と一緒ですか。
家田:広告と視聴者からの投銭が、配信者の売上のメインです。それが日本よりも今のところ普及しています。
山田:プラス、「Google」にしても「Facebook」にしても全部遮断しちゃっているから。でも13億人の人口がいるから、中国の国内を相手にするものだけでも相当なお金になるということですよね、経済規模があるということですよね。著作権とかぱくりの問題にしても、中国の中だけでやっていても十分に収益が上がるから、だからやっちゃっても大丈夫というところはやっぱりありますよね。
ただ、中国が1つはマーケットとして海外にとってもまったく無視できないところになって、中国の影響力というものが国際的にとても上がってきた。国内だけでやっていたのが、今度は中国が世界の基準になってきつつある。だからもともとは外と遮断したために生まれたものがいつの間にか中国を基準としたものになってきてしまって、それに世界も従わざるを得ないみたいな流れがだんだん出てきているようにも思います。いつの間にか正当化されてしまうという。だから中国に長くかかわってきた人は、複雑な思いで見ている部分がおそらくあると思います。
(以下、明日公開の2回目に続く)
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